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阿部


出来るなら二度と出逢いたくなんてなかった。




『…阿部‥』
「………」




阿部と付き合ってたのは中学2年の夏。
付き合い始めたのだって多分理由なんてなかった。
たまたま。
本当に。

別れてからは一切口を聞かなかったし、
ましてや、何処の高校を受かったかなんて知りたくなかった。

多分阿部は一般入試を受けたのだろう。
私はこの学校を推薦で受けていたから、一般で誰が西浦を受けたかなんて興味なかった。
だから知らなかったのだ。
阿部が西浦を受けていたなんて。



何かがぐらつく。
足元から崩れてく感じ。



『…じゃあ』
「………」



足早にそこから立ち去る。
一緒にいると息が詰まる、
あんな空気二度と味わいたくない。





『あ、すみませ…』



足元だけ見て歩いていたら誰かにぶつかった。
その誰かの顔を見て驚く。
向こうも同じように驚いた顔。



「…久しぶり…」



私がぶつかったのは栄口だった。
私と、阿部と、同じ中学だった、
そして、私の恋の悩みを聞いてくれていた栄口。




「びっくりした…西浦だったんだ…あ、阿部も…西浦なんだ…」



栄口は凄く申し訳なさそうな顔でそう言う。
そりゃそうだよね。
栄口は全部を知ってるから。



『うん…さっき、合ったよ』
「え、大丈夫だった?」



大丈夫もなにも、中2の冬、私達の恋は終わってる。

終わってるんだから…




『へ、いき…』
「…どうした?」



気付いたら泣けていた。





ああ、私、まだ好きなんだ。


あんなに息が詰まる空気が嫌だった。
嫌いだって思ってた。


なのに、
阿部の事思ってたより好きだったみたい。




『ごめ…』
「まだ、好き?阿部の事」



栄口の顔はやけに真剣で。
それは昔、私に本当に阿部を嫌いになったの?そう聞いてきた顔に酷く似ていた。



あの時私は嫌いになったの一点張りで、
栄口の顔に曇りが射すのを知らないふりをしたんだ。


あの時の自分は幼くて
我慢の仕方も、
頑張り方も、
素直になる方法も知らないそんな私だった。




『…うん‥なんでだろ、好き みたい』




言葉にしたらぐらついていた心が安定する。





「やっと、だね」
『は?』
「じゃあ、オレはもう行くから。あとは頑張れ」
『え、さかえ…』







栄口が去ったそこには阿部がいた。







「ずっと、引きずってた…お前の事」



昔、
阿部は私の事なんて好きじゃないって、
勝手に勘違いしてた。
阿部の事を好き、言えなかった。
強がったから。
一人よがりの愛が痛く感じて恥ずかしくて、
阿部の気持ちなんて知らなかったし、知ろうともしてなかった。



『好き…だった?昔も、私の事…』
「好きだった。今も、変わってねぇよ」



たったその一言を聞くためにどのくらい時間がかかったのか。


どれくらいすれ違ったのか。




そっと阿部が着ていた制服の裾を掴めば、阿部は少しだけびっくりした顔をして、私を見る。



『私も…好き…』



そう言ったら、阿部は嬉しそうに笑って 私の手を取って自分と私の指を絡ませる。


そんなの恥ずかしいのに、
絡んだ指先から伝わる体温と微かに感じる脈拍がとても心地よかった。




『阿部…?』



絡んだ指をきつく握られた次の瞬間された不意討ち過ぎるキス。



『………』



阿部は満足そうな、
してやったり的な顔をしていた。













あの頃より大人になった僕達が


(また出逢って)(恋をする)
(そんなこと予想だってしてなかった)






20100112



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