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悲劇の後の幸せ


私たちは今、街に来ている。

なんでもバレンタインのお返しがどうとかで、颯斗と龍之介に連れ出されたのだ。

あー…ポカポカしてる。

お返しは特等席でお昼寝でよかったのに。

っていうか二人とも歩くの速いし、何を急いでいるんだろう?


『ねえ、二人とも…』


私は二人に声をかけてみた。

…残念、空返事しか返ってこない。

それにしても、私は今、とっても歩きにくい。

二人とも足長いからペース速いし、こう、…二人に向けられる視線。

こう、私にぐさぐさとささってくる。


あの子なんだろー?とか、あの二人かっこいい!とか。


…せめて手を離してくれたら隅の方とか歩けるのに。

私は周りの声につられ、顔を上げる。

確かにかっこいい。うん、それは私でもわかる。


「ついた」

「彩、お腹すいてませんか?」

『え…っ』


いきなり止まった二人に手を引かれ、少し転びそうになった。


『すいてるけど…ここは?』

「宮地君のおすすめのお店みたいですよ」

外装は少しシンプルで、でもどこか懐かしさを感じるレトロな感じ。

龍之介はいつもこんなお店に来ているのか。


「いらっしゃいませ」


店内に一歩足を踏み入れると店員の明るい声が聞こえた。


「一応、お返しのうちのひとつだ」


席に案内され、腰を下ろすと龍之介がそう言った。

私は持っていたメニューと龍之介を交互に見た。


『い、いやいやうちのひとつってなに!っていうかあんな安いものにこんな高いものって…っ』


チョコは作ったほうが安上がりだからまとめて作ったから、大元はすごい安いんだけど…。


「俺達の奢りだから気にするな」

「はい、好きなものを食べてください」


二人にしては珍しくにっこりとした笑みを浮かべ、そう言った。

『で、でもわる「いいからメニューを見ろ」…はい』


龍之介は私にこの先を言わせないらしくそう強く言い放ちメニューに目を向けた。


『…じゃ、じゃあ、これ…』


取り合えず私は無難に安めのチョコレートパフェを頼むことにした。


「じゃあ、僕はこれで」
「すいません」


ああ、物事が勝手に進んでいくわ。

いや、いつも三人で外に出るとこうだっけ。



『そういえばさ、私あの後どうなったか知らないんだけど』


あの後、三人で帰ったのはいいが、木陰に隠れていた生徒会&月子の幼馴染軍団に捕まえられ、

龍之介と颯斗曰く、チョコ争奪戦が始まったらしいのだ。


あの時、チョコは部屋の冷蔵庫に入れたままだったから明日渡すからって言ったはずなんだよな。

っていうか生徒会メンバーは渡したし。

それで、その後私は月子に連れられ寮に到着。

最後までは知らないのだ。


「無事に食べた」

「少し手紙はボロボロになっちゃいましたけどね…」

他のものより先に届いたコーヒーを飲みながら、颯斗はそう言った。


『そ、そっか…』


いったい何があったんだ!


「あ、でもちゃんと伝わったんで大丈夫ですよ」

『そ、そっか…』


「お待たせ致しました」


恥ずかしくなった私にちょうどいいタイミングでやってきたチョコレートパフェ。

店員さんありがとう!!


『あ…、美味しいっ』


一口運び入れると、チョコレートと生クリームがいい感じに溶ける。


『高いだけあるわね…やるわね、この店』

「なんなんだ…。でも、ここは俺がよく来る店だからな」

龍之介はよっぱど自信があったらしく、運ばれてきたケーキを前に笑っていた。





『でもさ、本当にいいの?』

「ああ」


私はパフェを食べ終わり、心残りだったことをたずねた。


「まあ…あれだ」

「僕たちは彩がそうやって美味しく食べてるところが見られればよかったんです」


『あ、そうですか…』


なんだろう、これ。

っていうか二人がずっと心なし笑っていたのはこういうことだったのね!


「あとは、これ僕からです」

『え?』

「これは俺からだ」

『え、何?』


颯斗と龍之介はきれいにラッピングされた小さな小包を渡してきた。


「プレゼントです」

「…部屋に帰ってから開けろ」

『は、はい…』









多分この先、私はこのことを忘れないと思う。


この日の出来事を。



そして、三人でみたきれいな夕日を。










三人で歩いたこの道を―――…。











悲劇の後の幸せ

(開けてみた小包は、心あったまるプレゼントだった)
(今度はまた、私が言う番だね)

(ありがとう、これからも一緒にいてね)


原案作成→10/03/14
筆記→10/03/21

バレンタインの悲劇の続きみたいなものです。
そちらも見るといいかもしれませんね(


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