A!?
ケーキと三月うさぎ
「…………」
「……先輩」
「なんだソル」
「なんで俺達こんな草むらにいるんスかね」
「……」
そう、私達は今草むらをかき分けて進んでいた。長い草が肌が出ている腕に当たり少し痒い。
「そりゃあ……道に迷ったからじゃねぇ?」
「……」
ちろる君はなにを言うんだとよという顔をしてソルト君に振り返る。ソルト君はその顔を見た後に立ち止まりどうしたかと近寄れば拳を握り締めて怒鳴った。
「くそっあの帽子屋だとかなんかわかんねぇナルシスト野郎!なにが最初に入る洞窟だ!そんなんでわかるかっての!」
帽子屋さんはナルシストなんだろうか。確かに雰囲気はナルシストぽかったなぁと場違いなことを考えると冷静なちろる君が近寄って来る。
「まぁまぁソル。落ち着けって」
「落ち着いてられるか!どんだけ歩いたと思ってるんスか!」
「まぁ……疲れるくらいには歩いてるなぁ」
「そうっスよ!腹が減るくらいには動いたっスよ!」
「じゃあ怒鳴るなよ。余計に腹がすくぜ」
「……っ……」
ちろる君が呆れたように言い、ソルト君は黙りこむ。確かに言われればお腹がすいたかもしれない。
「……お前はいいよな」
「え?」
「そんなに動いてないからそんなに腹が減ってないだろ」
「……」
「俺なんか出て来たモンスター倒したりして疲れた……いいよな後ろで隠れていれて」
そう。最初襲って来たように普通に歩いていればモンスターが出てくる。ソルト君達はそのモンスターと戦ったりしているから私より疲れているのだろう。
「すみません……」
「あー別に謝って欲しいわけじゃねぇし?」
「……」
「ソル、お前は……」
「いいんですちろる君……」
確かにソルト君の言う通りでそんなに疲れていないし、隠れてばかりだった。
(私……迷惑ばかりかけてますよね……)
二人は勇敢に戦っているのに私は……
「……」
「陽菜ちゃん気にすることな……」
(でも……私にだってやれることありますよね?)
「わ、私」
「いぜ?って……ん?」
「食料探して来ます!」
「えっ!?陽菜ちゃん?」
(そう。木の実とかを探すことをするくらいは!)
くるりと背を向け、草むらをかき分けて進んで行く。ちろる君がなにか後ろで言っていたが、無視して進んだ。
**
「えっと……食べれそうな木の実……木の実……」
上を見上げ食べれそうな木の実を探す。
「……高い場所ばかりあるなぁ……低い場所とかあっても……」
「危ない!」
「いいと思うんですが…………って……え?」
声が聞こえ、何かと思った瞬間ガクンと片方の足が下に落ちた。
(あ……上に注意していたから気付かな……)
「!!」
そのまま体ごと落ちてしまった。ソルト君達に役に立てなくてすみません……と謝りながら目を閉じた。
「?」
運悪いと死ぬかもしれないと思い体にくる衝撃を待っていたが、きたのはなにかふわりとしたものを踏んだような感触がして不思議に思いながらゆっくり目を開けると……
「!?」
「い、いつまで乗ってるんやはやく降りろや」
「す、すみません……」
私は帽子屋さんと一緒にいたうさぎさんを下敷きに座っていた。状況を掴めず一瞬固まってしまったが、痛そうな声に私は慌てて降りた。
「すみません……下敷きにするつもりは……」
うさぎさんは立ち上がり、土を払った後大きな鞄からなにか取り出すと口に含み食べながら喋る。
「自分あほやろ」
「え」
「ちゃんと前方よう確認しいや!あほ」
「す、すみません」
「俺いなかったら自分死んでるで?」
「う……すみません」
うさぎさんの言葉は最もで私は何も言えずひたすら謝る。うさぎさんはひたすらいい続けた後、ため息を吐いた。
「で、一人で何していたんや?」
「え」
「さっきまで一緒にいた奴らはどないしたん?」
「それは……」
「まさか苛められたんか?」
「ち、違います!」
うさぎさんの目が細められ、私は慌てて事情を話す。
「私は二人の役に立とうと食料探しに来たんです!」
「食料?」
「はい、お腹が……減って……。あ……」
うさぎさんが食べていたものに目がいき、お腹が鳴る。
(は、恥ずかしい……)
お腹が鳴り、恥ずかしくて視線を逸らすとすっと目の前にオレンジ色のケーキが出された。
「え?」
「そういや、買い物していたけど食料は買ってへんかったもんなぁ……食い」
「わ、悪いです。大丈夫で」
「別に金は取らへんから食べ?お腹すいとるやつをほっといて食べるなんて鬼畜やろ俺」
「でも」
「えぇから……ほら」
「……す、すみません」
さぎさんは食べるまでひかないと思い、私は食べることにした。ほんのりにんじんの風味がするケーキは美味かった。
「食料探しすんのはわかったけど一人は危ないやろ。モンスターだって出るし」
「そ、そうですね……でも、私」
「?」
二人の姿を思い浮かべる。
「二人の役に立ちたかったんです……私足引っ張ってばかりだから」
「……」
後ろで二人に守られていてなにもしていない。迷惑かけてばかりだから。
「十分落ちて迷惑かけとるやろ」
「う……」
(言い返せない……)
確かに怪我でもしていたら迷惑をかけていた。
「……でも、気に入ったわ」
「え」
「自分名前なんて言うんだ?」
「え……甘泉陽菜ですが……」
「陽菜……なんかひよこって感じやな……」
「え」
「せやから自分のことひよこって呼ぶわ」
「え?え?」
ひよこと勝手にあだ名を決められたので、戸惑うが嫌な気もしない。
「で、俺の名前は三月うさぎこと唯是や。唯是って呼んでや」
「え?」
「俺も食料探し手伝ってやるわ」
うさぎさんは私に笑いかけ言う。
「え、わるいで」
「えぇから!俺が勝手にするんや!」
「でも」
「よろしゅうひよこ」
再び笑ったうさぎさん……いや、唯是君に私は断ることが出来そうになかった。
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