A!?
小瓶と少年
――誰かが私を呼ぶ声がする。
その声はとても懐かしくて大切な存在な気がするのに私は動けずその呼ぶ声を聞くだけ。
(貴方は誰…?)
彼を見たくて、誰なのか確かめたいのに身体動かない。
変わりに感じたぬくもりは生暖かく見えた目の前の色は―――何色だっただろうか。
**
真っ白い空間だった。
気が付くと私は真っ白場所に立っていた。なんでこんな真っ白場所に立っているのだろうか、私は何をしていたのだろうか。
最初に思い付いた疑問はそれだった。
(というか私は何をして…あれ?)
次に出てきた疑問は側にいた小さな白い兎だった。白い空間に同化して目の前にいるのに気づかなかったらしい。兎がこちらが気付いたのを知ってか耳をぴょこぴょこ動かして、そして背を向けて走り去る。
(あ、逃げ…あれ?)
身体が勝手に走り出した兎を追い掛けていた。追い掛ける先に何が待っているのかわからない。だけど私は何故だかわからないが追いかけなきゃならない気がした。そして…
「え…きゃー!?」
いきなり空いた穴に兎が飛び込み、私も後を追うように追い掛けてしまいそのまま穴に落ちて行く…
(えぇ、何がなんだか…)
落ちていく間色んなものが上から落ちて来る。絵本、クレヨン、人形…おもちゃ箱をひっくり返したようなのから辞書、テニスラケット、可愛らしいテディベアのネックレスから様々だ。
落ちていくものを視線で追っていき下にいくと真っ暗で地面がないように見える。
(えぇ…!?)
それに焦り、近くに落ちてきた棚にどうにかなるかわからないが手を伸ばして掴もうとしたが手が滑りそのまま急降下で…
(の、のまれる…!!)
下の真っ暗な空間に消えてしまう気がした。でも、不思議とそのまま吸い込まれ消えるのいいかもしれない…そう思い目を閉じた……。
目を閉じた後何故か不思議な感じがした。地面に足が着いた感じだった。そんなまさか。
先程まで落ちる光景を見て地面が遥か遠くだったはずなのにそんなはずがあるわけがない。だけど、足は安定し、身体を支えられている。
先程の棚みたいなものに立っているのだろうか、でも落ちている感じがしない…なんだろうと目を開くと…
「え…」
思わず声が漏れてしまった。創造していた場面とは全く違い、私は色鮮やかな花が咲く花畑の真ん中にいた。
「何で…」
いくら何でもおかしい。だって先程まで落ちていたのに目を瞑ったらこんな場所にいるなんておかしい。まるで夢みたいだ…いや、先程の落ちていく夢を見ていたのか立ったままで。
(夢…?何が……あれ?)
色鮮やかな花が咲く中に黒い髪が風になびいていた。白兎とは違い、黒い髪の少年はこちらに気付くことなく髪を揺らしている。
「…」
その背中を見つめていたら不意に風が二人を通り過ぎ花が舞う。その花が舞うのに少年は声をもらし、振り返った。
「……」
髪と同じく真っ黒い瞳と目があい、私は息をするのも忘れ彼を見つめる。どこかであった気がしないのに視線を逸らせず彼を見ていた。彼は…
「なんだ女か」
「!?」
盛大なため息をして、彼はまた前を向き座り込み花畑の花をがさがさと探る。私は彼が何を言ったか理解しようと固まる。
(なんだ女かって…え?)
「あ、あの…」
「…」
彼に話し掛けるが彼は全く興味がないらしく振り返ろうとしない。困りながら彼の様子を見ていると彼が掻き分けるようにしていることから何かを探しているのに気付く。
(何か探し物でしょうか…?)
「あ、あの…」
「…」
「な、何を探しているのですか?」
「…」
「…」
「鍵だよ」
質問には間が空いたがちゃんと彼は答えてくれた。私は納得して屈むと彼は驚いた表情をみせた。
「お前…スカート汚れるんじゃねぇの…」
「その…探し物なら私も手伝います…二人の方が早いと思いますし…」
「まぁ、そうだけど……知らねえからな服汚れても」
彼は素っ気なくそう言って頭をかくとまた背を向け探し出す。
(鍵…鍵を探す…そういえば鍵と言われても…)
「あ、あの…」
「あ?今度はなんだよ」
「す、すいません…」
「いやだから…何?」
作業を邪魔されたからか彼は不機嫌に聞いてきた。私はびくっと怖くなり「やっぱりなんでもありません」と答えようと思ったがでも聞き返してくれたのだからちゃんと聞こうと恐る恐る話す。
「か、鍵ってどんなのでしょうか」
「どんなの?」
「はい…小さいとか何か特徴があればその…探しやすいかと…」
「…」
「あ、あの…」
「……。知らねえよ」
「え…」
思わず手を止め彼を見る。彼は背を向けたまま手を止めることなく掻き分けている。
「何でわからない鍵を探して…」
「…」
「ひっ!」
彼はくるりと振り向き私を睨んだので固まる。彼は明らかに不機嫌いや眉をつり上げ怒っていた。そして…
「知らねぇよ!でも探すしかないんだよ!それくらいわかればか」
「…!」
(こ、怖いですこの人…)
聞いただけでいきなり怒鳴られれるとは思わなかったので思わず近くにあった木身を隠し震えながら見つめる。
「…っ…。…鍵がなきゃ出れないんだよ」
「…」
彼は隠れた私に舌打ちをし、そしてまた頭をかきながら上を見る。
「この空間から」
「この空間って……!?」
彼に言われて初めてここが白い壁に囲まれている空間なのに気付いた。
「え…?」
「気付いてなかったのかよ…本当にばかだなアンタ」
「…」
地面が花畑で周りでまさか周りが真っ白な壁だとは思わない。いや、空から落ちてくる光とは全然違うのに気付かなかった自分も自分かもしれない。
(上の終わりが見えません…)
上を見上げるとかなり遠くまであるようで暗闇に包まれている。私はもしかしたら落ちてきたのかもしれないと思いながら目の前の彼に目がいく。
(この人もそうなんでしょうか…)
周りを見回しても他にどこから来るような入り口が見当たらない。彼もどこかから落ちて来たのでしょうか…
「……何」
「え…」
「無言で見んなよ!言いたいことははっきり言え!」
「…!」
(こ、この人怖いです)
また隠れるが彼は睨み付ける。他に隠れたくても逃げる範囲はこの空間では決まっていて。
(何か言わないと…睨むの止めてくれそうにありません…)
「あ、あの…」
「なんだよ」
「あ、貴方も落ちてきたんですか…」
「…」
「あ、あ…す、すいません!!」
先程の睨み付けるとは比較ならない程に眉間に皺を寄せ彼は睨んできた。なにか墓穴を掘ったみたいだ。
「アンタさぁ…手伝う気ないなら話し掛けて邪魔するな」
「は、はいっ!」
彼は鋭く睨んだあとにくるりと背を向けた。後ろ姿からまだ不機嫌なのがわかる。
(凄く怖い男の人です…)
話し掛けたら怒ってばかりだし、もう話し掛けないのが一番なんでしょう。彼も話し掛けるなと言いましたし。
(それにしても…)
彼が鍵を探しているように私もここから出るにはどうにかしなければいけないのでは。
(でもどうやって…あ)
改めて辺りを見回すと花畑の真ん中にあるお茶会をするのによさそうな白いテーブルと椅子があった。
近寄るとそこには小さな小瓶と金の鍵があった。
(さっきの彼が探していた鍵?なんで…あれ…)
白い壁の方を見るとハムスターが入れるかくらいの小さな扉があり、座り込み鍵を回した。がちゃりと音がして扉が開き覗くとどうやら外に繋がっているようだ。
(…でも、こんな小さな扉じゃ私入れないですよね…あれ?)
そこで私はどこかでこんな話を聞いたことがあるのに気付いた。
(小さな小瓶に小さな扉…確か…)
「なんだよこのケーキ…eatme!とか書いてる紙とか意味がわかんねーし。なんだよそこにある小瓶の中身と一緒に食べろか?はっ…本当ここはばかに……?おい…アンタ何して…」
花畑の中にあったのか彼はケーキを片手に近寄り私が小瓶を持ってると慌てて近寄る。
(確か花田じゃなく広間だった気がしますがそんなの今は…)
「アンタ何が入ってるかわかんねーもん…おい!」
ぐぐっと小瓶の中身を少し飲む。そうすると視界が段々と巨大化していき、そして…
「!?」
「…やっぱり」
身体が小さくなった。扉近くにいくと通れるくらいのサイズにもなっている。
「…」
「あ、あの」
「?な、なんだよ」
「その…小瓶の中身を飲むと小さくなって扉から外に出れるようです。…だから…」
「え…」
「貴方も…どうでしょうか…」
見上げてみた彼の顔は高くて見えなかったけど、彼の足は小瓶が置いてあるテーブルの方へと向かった。
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