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御題
無力を知った(黒赤)



「…ル………アル…、アルセスト」



「………っ」





 ふと目を醒ますと、目前には訝しそうな顔のオーギュストがいた。


 私は微かに霞む視界の中で彼を見詰め、少しの間惚けてしまっていた。




「どうしました?アル。
 なんだか魘されていたようでしたが…」




 そう問うてくる彼の赤い隻眼は少し、揺れている。


 彼がそこまで心配してしまうほど、私は魘されていたということか…。




「いや……大丈夫だ…」

「本当に…?」




 未だ心配したような瞳を向けるオーギュストに笑みを返す。


 けれど、その途端に浮かんだのは、夢に見た映像。



 それは、蹲り、溢れる涙を拭う幼いユーリの姿で。





「……夢を、見たんだ…」





 小さく呟けば、彼は私の足元に片膝を付き、私の顔を見上げた。


 彼の赤い隻眼が、夢の中で見たユーリの双眸を思い出させ、私の胸をきつく締め付ける。




「…私が、………ユーリを守れなかったあの日のことを」




 私は、ユーリが泣いている姿を見たくなくて、
 ユーリにはやはりいつも笑っていて欲しくて、

 だから、自分を犠牲にしてでもユーリを守りたくて禁忌を犯した。




「それも、お前を巻き込んでまで…」

「何を言っているんですかっ?あれはオレ自身が望んだことです」




 禁忌を教えたオレにも非があるのだから当然です。



 そう呟いて、オーギュストは私の赤い髪を優しく撫ぜた。

 その温もりに私は何処か癒され、気付けば自然と口許に笑みを浮かべていた。




「…少し疲れているのでしょう。だから魘されてしまうんですよ。
 何か暖かいものでも飲んで、今日はゆっくり休んで下さい」




 優しく微笑んだ彼。


 立ち上がろうとした彼の黒い髪に私はそっと触れた。

 オーギュストは訝しく私を再び見詰めるが、私は構わず彼の髪を梳く。
 そして、厳重に包帯の巻かれている顔の左半分に触れた。

 包帯の留め具を探し、それにそっと爪を掛ければ、彼は外しやすいようにと顔の向きを変えてくれた。


 しゅる………と、音のない部屋に、静かに包帯の解けていく布擦れの音がする。





「………………アル…?」





 私の名を小さく呟いた彼にそっと顔を寄せ、晒した左眼に唇を落とす。



 火傷の痕が何百年と経った今でも消えずに残る彼の左眼は、私の犯した罪の大きさを知らしめるもので。



 不意に、ユーリの姿が頭を過ぎった。



 あの頃から何一つ変わらず、ユーリは血を求める己の性に苦しみ、そして今も血を嫌い続けている。





(―……結局、私には何一つとして守れたものなんてなかった…)





 大空を自由に翔び回る為の翼を片方失ったことなんて、痛くも痒くもなかった。


 ただそれよりも、自分や周りのもの総て、
 そして大切なオーギュストとユーリのことを忘れていたことが酷く辛くて、



 総てを思い出した時、本当に、なんて残酷な罰かと思った。




(………いや、そうじゃなくて…それよりも、)





「……………守って………やれなかった……………」





 私の勝手な我が儘に巻き込まれたオーギュストを。

 そして、

 脆く、壊れそうなほどに優しすぎるユーリを。



 私は、守ってやることができなかった。


 必ず守ってやれると、心の何処かで自負していた自分が、酷く憎い。



 結局は、何も……誰も守れていなかったのだから。



 だってほら、目を凝らさずとも見えるだろう……。

 自分の犯した罪の大きさが。




 そっと撫ぜた彼の左眼はもう二度と開かない。

 光を見ることはない。


 自分が犯した罪の所為で。





「………済まない……」





 頭に浮かんだユーリは、今でも泣いたまま。


 血を厭い、吸血鬼である自分すらも厭う。

 あの子は、あの時からずっと変わらず苦しみ続けている。


 いや、もしかしたら私たちの背負った罪を自分の所為だと己を責めているだろう。


 私はあの子を守るどころか余計に苦しませてしまった。



 そしてきっと、あの子の心を深く傷付けた。



 あぁ……所詮は、何一つとして守れたものなんてないんだ。


 どんなに強い吸血鬼の力があったとしても、

 この愚かな諸手では何も守り貫くことなんてできない。



 結局は、総てが無意味で。






「………………………………………泣かないで下さい……アルセスト」






 私は、今更ながらに自分自身の
 無力を知った……。





(こんな涙で自分の犯した罪が洗い流せるはずなどないのに、

 …涙を止める術がわからない。


 こんなのはただの……………………逃げだ。



 本当に辛いのは、私ではないのだから)










最後まで読んでくださって有難うございます.++


今回のお話は、黒スマと赤ユリで。


……………ラブラブはしてないですね(´∀`)

御題がシリアス系だものネ♪♪
仕方ないよなー。。。

あ。今度、甘々の御題のもやりたいですね!



えと、遅くなりましたが、この話は赤ユリが記憶を全部戻してるっていう設定です。

じゃないとこのお話が書けなかったので。


なんだか、誰も救われなそうですね………………orz
(↑改めて思った……ごめん、赤ユリ、黒スマ、ユーリ…………←)




それでは、最後まで読んでくださった皆さまどうも有難うございましたッ♪♪




08,11,18
(修正、09,04,09)




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