桜並木の下で 2-9 バタバタと近付いてくる足音。 ぼくの前にいたユーリが訝しそうにこちら(ドア)を振り返り、 内心ひやりと汗を掻きながらぼくもそちら側を振り返る。 あ………嫌な予感がする…。 そう思っている間にも足音は確実にこの教室へ近付いてきていて……。 「面貸せ包帯ヤロー!」 漫画なら、ブレーキの音でもしそうな勢いで走ってきた人物はぼくらの教室の前でうまく急停止。 嫌な予感通りその人物は、今朝別れたシオンというユーリの双子の弟さんでした。 ぅわぁ……チョー睨んでるんですケド…! 取り敢えず、背後のユーリから『騒ぎにするな』という無言の圧力を受けながら、ぼくはなんとかお得意の笑みを浮かべた。 (きっと、うまく笑えていないんだろうけど…) 「……ゃ、やぁ………わざわざどうしたんだイ?」 煽らないよう喋りたかったんだけれど吃って見事玉砕。 ちょ、この子威嚇してきてるよー…! と、とにかく……ここは昨日のことをとっとと謝ってしまおう。 「ぇと、昨日はゴメンねぇ?今日必ず時間を空けるから、ソレじゃあダメかなぁ?」 こういう時ってやっぱ言い訳は見苦しいよね。 いくら一方的な約束だったとはいえ破ったのはぼくなんだし、非はぼくにある。 だからと言って、明らか揉め事になりそうな展開なのは解っているけれど……………、 でもやっぱ、今時体育裏に呼び出して本当に「決闘だ!」なんて展開はないよね。 うん、もう古いよね。 この子が寄越した果たし状だって、実はただの口実で、本当は「兄をよろしくお願いします」って素直に言えなくてそんな手紙を送ってきただけなんだよね。 だってユーリの弟だもん。 そんな血の気が多いわけ…… 「……ん。なら、今日の放課後、体育館裏に来い。決闘だ!」 血の気多かった……!! てゆーかこの子だいぶ天然入ってんじゃないの?! ユーリの家族って皆天然でしょ絶対…! ぼくが衝撃を受け、周りも呆然としている中、シオンだけが元気で、「てめぇみたいな変人にユーリはやらねぇからな!」とか言っている。 ………いや、なんかもう……呆れを通り越して寧ろ可愛い気がしてきたよ、この子。 アレでしょ? ちょっと足りてない残念な子なんでしょ? うん、可愛いよ。 なんか、小動物に見えてきたし。 「………全く……シオン」 すると、今までずっと黙っていたユーリが不意に口を開いた。 その声に、シオンがぴくりと反応する。 「あれほど喧嘩はよくないと言っているだろうが…」 「……だって、」 「だって?」 もごもごと口籠もり俯く顔を、腰に手を添えたまま覗き込んでくるユーリから逃れようと、彼が余計に顔を俯かせる。 心なしか頬が紅く見える。 (……なんか、この図………母子みたいで和むなぁ) なんて暢気に眺めていたら、シオンがバッと顔を上げた。 そしてそのまま、ぼくはまた睨まれてしまう。 「……おい、お前。放課後、校門で待ってろ」 「喧嘩…?」と呟くユーリに慌てて彼は頭を振り、ぼくを恨めしそうに見てくる。 あぁ……ユーリの手前、強く出れないのね。 いちいち可愛いなぁ。 「なんでもいい勝負しろ。何するかはユーリとお前が決めればいい」 「…なんでもイイの?」 「ん」 頷いた彼は真剣な顔で。 ぼくは、ニッコリと笑って了承した。 (後ろで魔女が、キモいとか言ってるけど無視無視) 「おー?シオン、こんなとこで何やってんだー?」 「げっ、」 「俺より早く教室に入らないと欠席にしちまうぞ〜」 そう言って、隣のクラス担任のハジメせんせーが廊下からひょっこり顔を出した。 けど、シオンが慌てたのを見て、ニヤリと笑うと出席簿を振りながら行ってしまった。 それに再びシオンは慌てふためき、 それでもビシッとぼくをまた指差して。 「お前が勝負に勝ったらユーリと付き合うのを許してやる! けど、オレはぜってー負けねぇからな!」 彼はそう捨て台詞を吐いて、廊下から聞こえるハジメせんせーの茶化すような笑い声を追い掛けて行ってしまった。 ……うん、この、嵐の去った後のような静けさってなんかデジャヴです。 ユーリの少し冷たい目線も、デジャヴです。 お願いだから、ぼくをそんな目で見ないで下さい…。 寧ろ、被害者はぼくだよ? そうそう…後でタイマーから聞いた話なんだけど、 ユーリを狙う男に弟君は勝負を持ち掛け、今の所見事に全員負かしているらしいよ。 …………わーぉ…★ スマのテンションとノリって書きやすいんだよね…………うざさ加減がw← 次の話ではまた少し横道に逸れて、紫スマが絡むかな…? それか、黒ユリと緑ユリ。 ………………いつ緑&水スマが出るかしら……← 09,06,23 [*前へ][次へ#] |