桜並木の下で
2-10
「それで結局、まぁーた性懲りもなく喧嘩吹っ掛けたってわけね?」
ほんと、幾つになってもあの子はガキね〜。
そう言ってアリアは私の机に座りながらコロコロと楽しそうに笑った。
「でも、ルリがユーリのことでなんにも言わないのは珍しいわね」
さっきまで私が飲んでいたココアに口を付けながら、彼女が不思議そうな顔をして振り返る。
そのアメジストの瞳は答えるまで解放してくれなさそうだ。
「…私だって、………嫌だよ」
でも、と付け足し、さっきまでザインが読んでいた本に手を伸ばす。
「…ユーリが、なんだか……笑ってたから…」
普段、家族の前でもあんまり笑わないあの子が、あいつの隣では楽しそうに笑っていた。
コロコロと表情を変えるあいつにつられて、あの子も普段あんまり見せない表情をしていた。
それを、たまたま見かけてしまったから。
(それに、あいつの話をした時のあの顔………やっぱりちょっと違ったもの…)
「だから…しょうがないから、許す…」
「そーね。あたしも、ユーリが笑ってたから許したげなきゃ」
「………泣かせたら、ただじゃ置かないけど…」
「同感〜♪♪」
たんっ、と机から下りてアリアは私のココアのパックを机に置いた。
………ぅわぁ……全部飲まれた…。
「それじゃ、あたしガッコに戻るわね〜」
「ん。…わざわざ、忘れ物届けに来てくれて、ありがと…」
「いいわよ。自習の時間使って来たし」
それじゃあね☆
教室の扉からヒョッコリと顔を出し、手を振って去っていったアリアに手を振り返し、
彼女がいなくなってから空のパックと本を弄び。
「……でも、やっぱ1発くらい…………殴りたい」
だって、大切な大切な家族を奪っていったんだから。
そうして、今度あいつを見かけた時のことを、密かに企んでみた。
ガコンッ
「……はぁ…」
自販機から缶が出てきたと同時に、ぼくの口からもつい溜息が出てしまった。
だって、今日の放課後にユーリを賭けて、ユーリの弟君であるシオンと勝負(喧嘩ではないよね)をするんだよ?
しかも、何で勝負するかはこっちで決める。
健全な勝負って言ったら早食いとか、ゲーセンのシューティングとかしか思い付かない。
まぁ、穏便に事が済みそうなのはいいんだけど…。
「完璧に目ぇ付けられたな」
思ったことを誰かに言われるって、結構ヒヤッとするね。
そう思いながら隣を見遣れば。
「よぉ。久しぶりだな、スマ」
「ザイン………あ、そっか。君もここに通ってたんだよネ」
「まぁな」
ぼくが退いた自販機の前に立ち、ぼくに似た従兄のザインがポケットから出した小銭を投入している。
それを珈琲缶に口を付けながら眺め。
「もしかして、君んトコにもぼくの話行っちゃってるノ?」
「当たり前だろ。あんな騒ぎになりゃ…」
「ですよネ〜」
なんせ、校内新聞でバラ撒かれたんだから…。
まぁ、いいんだけどねぇ。
「それに、ユーリの兄とは親しいからな」
ガコンッ、と、缶の出てきた音を聞きながら一瞬固まって。
そして、彼が屈んだと同時に脳が再起動。
「ぇえ?!お兄サンいたの?!」
「正確に言や、兄が2人と妹が1人、あと双子の弟が1人な」
「……大家族ー…」
「だな」
お前、兄弟全員に睨まれてたぜ。
なんて、久しぶりに見た彼は(今までではあんまり見たことない)笑みを楽しそうに浮かべていた。
(……ちょっと変わったなぁ。今度何があったのか訊いてみよ…………言わなそうだケド)
ぼくは、今度はさっきよりも深い溜息を吐いてしまった。
まさに、四面楚歌…?
もう一度出てきてしまった溜息をそのまま吐き出せば、
やっぱりザインは人事のように笑っている。
確かに人事ですが。
「まぁ、せいぜい頑張るんだな。特に弟のチビは噛み付き癖のヒドイ小動物だからな」
「今まさに噛み付かれているトコロなんだよねぇ…」
放課後、勝負申し込まれた。
それを聞いた彼は、流石あのチビ…と呆れているのか、それともやっぱり楽しいのか……………もう笑うなっての。
「でも、気をつけろよ」
珈琲缶に口を付け、彼がこちらを見遣る。
その顔は、僅かに真剣な色を含ませていて。
「ユーリを欲しがってんのは、お前だけじゃねぇんだから」
「知ってる。結構絡まれるもの…」
「や?それもあるけど、そーじゃなくて」
彼の言葉の意味が解らず、彼を見詰める。
彼は、色の違う双眸を細めたままぼくを見返す。
「もっと………ある意味あいつの兄弟達より厄介な奴が…な」
そう言って、彼はパックの自販機の方へ行ってしまった。
珈琲飲んでるのに、何故かココアを買っている。
(………厄介な奴…?)
(ユーリを狙っている奴は多い…………でも、ザインが言っているのはいったい…?)
「……ま、先にチビをどうにかすんだな」
じゃあな。
そう言ってザインは、買ったココアをそのまま持って戻っていってしまった。
(…あのココア、誰かにあげるのかな?)
ぼくはそんな彼の背中を呆然と眺め、
空になってしまった缶をごみ箱に投げ入れながら。
やっぱり溜息を吐いて。
(……もう、考えるの面倒だからゲーセンでイイかな…)
自然と曲がってしまう背筋をそのままに、教室へと戻った。
出したい時に出したいキャラを無理に出しますすいません。
グダグダで長いですすいません。
紫とスマはきっと会ったのが、スマのママのお葬式以来なんだよ。
あと、ユーリが大好きなあの子の存在を軽く匂わせといた★ということで、金との問題が解決したら次はあの子が出ちゃうんです。
他カラズの各々の話がいつまで経っても書けないwworz
09,07,13
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