頂き物
『ある少女について:滝川語り』逆トリ番外
※逆トリネタバレ
――滝川財閥。
前社長であり裏の顔は日本を牛耳るヤクザ達の大親分な滝川征貴がかつてなく成長させトップ企業にまで持ち上げた、その組織の現社長である佐也人に課された、いつもの如く面白半分な見合い話。
常ならば適当に会って適当に挨拶し、紳士の皮を被ってバレぬままはいさよなら、表企業の人間だからあんなこともそんなことも控えなければあーフラストレーション。よし適当にヤって帰ろうな滝川佐也人が。そしてそんな彼の行動に何にも突っ込まない従順な仁名狼が。
今回、桜庭鴇という滝川に勝るとも劣らない大財閥令嬢との見合いから、朝帰りをしてのけた。
何故かやけに、ぐったりと憔悴したような様子で。
「で?先に帰って来た奴等やけに興奮してたがよ……"ただの"嬢ちゃんじゃなかったって?」
「アレを基準に見たら世界がひっくり返ること必至だぜ親父さん…」
裏でどんな位置に在ろうとも普段の顔は企業家――次の仕事までそう間はない。
狼を休ませて自分は征貴の部屋へと酒を持ち込んだ佐也人は、幾分疲れた体を見せながらも楽しそうに口角を上げていた。
眉を上げてそれを認めた征貴がへぇと内心驚きを沸かす。
「マジでかかってヤれなかった女は初めてだ」
「負けたって?アイツ等がああも必死にフォローしなきゃぶっ飛ばしてるとこだぞボケが」
「ざっけんな俺じゃなくても無理だっつの」
ぐい、と一口煽り。
「ありゃ完全に"こっち"の人間だ…中身がな」
「桜庭の若造がなぁ…まぁ、どっかイかれてるとは前々から思っちゃいたが。可哀相なこった」
現役で手腕を揮っていた時は、桜庭大吾ともよく顔を合わせていた征貴が、感慨深げに目を細める。
虐待。
まさかそんな下らないことをしていたとは…といっても、それ以上に何かを思うことは、ない。
いつもならば、だが。
「テメェが気にするなんざ珍しいな…佐也人。いつもならどうでも良いとか言って首突っ込むようなマネしねぇだろ」
静かに息子を見据える征貴に、佐也人はチッと舌を打った。
「親父さんは見てねぇから言えんだろうが。ありゃイイ女だぜ」
「確かに戦力になる女なんてのはなかなか居ねぇがな」
「イタリアンマフィアなんかとどこで繋がったんだか……とにかく、それを抜いても違ぇ。他の女とはな」
思った以上に高く見ている佐也人に軽く目を見張りながらも、征貴は中身のなくなった酒瓶を転がしつつ「だが」と話を続ける。
「まだガキだ。お前なら相手が怪物だろうが身体からオトすことだって難しくはねぇだろ」
「アンタが言うか…誰のお陰だと思ってやがる」
「あん?感謝してんならその嬢ちゃん寄越せよ」
「ふざけろ。アレは俺のだ」
つーかいつまで元気なんだ人の目ぇつけたモンにまで手ぇ出すなよ…半ば呆れたような息子の視線にも何のその、おかしそうに笑う征貴に、佐也人もくつりと喉を鳴らした。
「考え方も気に入ったんだよ。とりあえず俺はアイツの復讐劇にノったぜ。奴と連絡取るか」
「別に止めやしねぇが警戒はしとけよ」
「分かってるっての」
即で返した佐也人は、そのまま何かを思い出すようにどこへともなく目を据えた。
それを目にしながらも、ふと征貴は佐也人に話を振る。
「そういや佐也人…テメェがこないだ引っ掛けてきた女、ここまで来たぜ。かなりイイ女だったな」
「…あ?そうだったか?」
「…、よく言うぜ。久々に遊べそうだっつって喜んでたじゃねぇか。一応保留にしてるが、どうすんだ」
暫しの間を空けて、佐也人は興味なさそうに、思考を止めた。
「…もう要らねぇわ。気に入ったんならやるよ」
「ふざけんな倅の古かよ」
「じゃあ次来たら適当に遊んで好きにすりゃ良い」
「……………」
じっ…と、征貴の視線が佐也人を貫く。
それに気付き何だよと眉を寄せる彼に、征貴は「なぁ」と僅かに変化した声音で告げた。
「連れてこい、そいつ」
「……あ?」
「初めてテメェがご執心な女だよ」
ぱち、と虚を突かれたように目を瞬き、数秒。
佐也人の瞳が、喜色を宿し見開いた。
「…良いねぇ。ぜってぇ手ぇ出すなよ、親父さん。マジ面白い奴なのは保証するが抑えろよ、絶対だからな!指1本もアウトだ、いいな!!」
「どんだけ念押す気だテメェ!そんなに信用ねぇのか俺は!!」
「女に関してはな!いいか俺ぁアンタに似たんだ、忘れてるようだから言ってやるけどな」
「言うようになったじゃねぇかガキが…」
ハン、と鼻を鳴らした佐也人に冷たい笑みを浮かべる征貴。
しかしその心中には、あたたかいものが広がっていた。
――極道に生まれ財閥の家に生まれ。
命を狙われ大人に媚びられ。
いつしか身内しか信用しなくなり、他人をモノのように扱い出した息子。
この世界でそれは当たり前であり責められることは何ひとつない。むしろ隙のない男として更に株は上がる。
だが。
そのままでも良いとは思っていても、そのままが良いと思ったことは、一度もないのだ。
かつて自分がひとりの女を愛したように、何かを誰かを、認め懐に入れ、心を開いたなら。
財閥の力をそして裏の若頭としての力を人員を全て使ってでも助けたいと思えるような女に出会えたならと。
儚いと思っていた小さく大きな願いが、常に征貴の胸の内には、あったのだ。
楽しそうに、子供の頃を思い出させる笑顔を見せる息子が語るひとりの少女に、心底興味が、引かれたのだった。
(よしまずは俺の前に連れてこい)
(…おいだから、)
(出さねぇっつってんだろいい加減撃ち抜くぞテメェ!)
(だあぁっ待て俺は疲れてんだよ今抜く力はっ)
(大体どんな状況でも女に負けんじゃねぇ!!)
(っあ"あ"あ畜生!!)
アサ様より相互お礼としていただきました!
もう、この掛け合いとかキャラクターにメロメロですo(^-^)o
本当にありがとうございました!
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