水槽の中で見る夢 水槽の中で見る夢 「前に言った通り、明日は、アルテミスだから」 「……」 「予選でちょっとした実験をして、決勝戦であのスーツを試します」 「……っ」 「先日は、ごめんなさい。私の目を盗んであの者たちに勝手に実験を開始させてしまった。 まだ安全にことを進めるだけのデータ収集が終わってなかったのに、あんな強行をしたから……痛かったでしょう?」 「……」 「おかげでずいぶん体力を削られてしまったから、明日の決勝はつらくなるかもしれない。 だから、予選で行う実験は偶然性を装ったもの中心に組んでおきました。 多分、戦略知略中心の実験よりも、体力的な面で大幅な違いが現れると思います」 「……」 「さて、」 そこで彼女はいつもの椅子から立ち上がり、僕の枕元に拳銃を置いた。 「この拳銃には弾が2発だけ込められています。 私はここから動きません。 そして、私が死んでも、明日の実験は行われます。 でも、流石に貴方がいなければ実験は無理です」 「……」 「一つ。私を撃って日ごろの恨みを晴らす。 二つ。自分を撃って苦しみから解放される。 三つ。私を撃って、その後自分を撃って、この実験を終わらせる。 どれでも、いいから」 そして彼女はベッドサイドのボタンを押して、僕の上半身を起こした。 拳銃は枕元からゆっくりとずり落ちていき、僕の手元近くで止まった。 僕は、コードだらけの手でその拳銃を取った。 いつもジャッジでやっているように、今度は僕自身が銃を構えた。 彼女のみぞおちに照準を合わせる。これなら、体力の少ない今、撃った衝撃でぶれてもどこかには当たる。 その体制のまま、僕はゆっくりと初めて彼女への口を開いた。 「なにを、かんがえているの?」 「貴方にチャンスをあげたくて」 「…チャンス?」 「恨みを晴らすチャンスと、自分の人生を自分で決めるチャンス。 随分とネガティブな選択肢だけれど、こればっかりはどうしようもなくてね」 「しぬよ?」 「かもね」 「怖くないの?」 「どうだろう…………私の妹の命が海道の手に握られた瞬間は、本当に怖かったけれど、どうしてだろう」 私の命を君が握ってくれること、そんなに怖くはないのかな。 って、 そんなの僕が知りたいことだよ。 引き金を引いて、 銃声が鳴り響く。 2013.1.27.日 [*前へ][次へ#] |