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「あ、いやその…っ、」
あんなに意気込んだくせにいざ本人を目の前にすると、声が震える。
それを訝る様に見つめてくる瞳に慌てる。
「ぼっぼ僕のことっ、覚えていますか…!」
目線に堪えることが出来ず、半ば投げ遣りに、悲願するように問いかけた。
結果は、僕にとって残酷なものだった。
『…知らない。』
綺麗だと思った瞳に僕は映っていなくて、どうしようもなく泣きたくなった。
「、っく…、ひっ、く…っ、」
「よしよーし。大丈夫だからね〜。」
ひっきりなしに吃逆が出る。
頭を撫でる手がなんとも心地良いから尚更だ。
名前も知らない相手に安心してどうする。
「ゔぅ…、」
「はーい、鼻かんでー。」
ティッシュを鼻に押しつけられた。
やっと泣き止んだ、と笑う目の前の男は…くそっ、イケてるメンズだ。
「…というか今更だけど、君名前は…?」
「ん?…あぁ、名前か。その内分かるよ。」
「え、ちょっと!」
腕を引っ張られ、無理矢理立たされた。
ぐいぐい引っ張られながら、その内って何時だよ!と心の中で叫んだ。
「彼に見覚えないんだ?」
『……聞いてたの、マスター。』
「聞こえたんだよ、零。」
マスターがにこりと微笑む。
嘘だ。絶対態とだったくせに…。
「んで?どーなの?」
『知らない。』
「へぇ、そう。じゃあ早く帰ろう。」
差し出された右手。
その手を躊躇なく取った。
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