小話
あれから(TOA・ガイルク)
君がいない世界は息が詰まる、
そうかっこつけた言葉を吐いても、何も満たされやしない。自己陶酔すら出来ない。
何も。何もないんだ。
お前がいない、それだけでこの世界は俺にとって何にも意味をなさなくなる。
なのにおまえはそんな世界を守ろうと、残そうと。
愛そうと。
そう懸命に思って考えて動いた。
そしてもたらされたこの世界は、確かにお前の思うように今も機能を果たしている。
だけど
お前がいないんじゃ意味なんかない。
馬鹿野郎。
何なんだよ、おまえはどうしてそうも馬鹿なんだ。
残酷なんだ。
なんでいつも俺のことを置いて行くんだ。
みんな。大切な人たちはそう、みんな。
それでも、それでもお前だけ、お前さえいればもうそれで良いとまで思って、ファブレへの復讐も、ホドへの思いも自分でどうにか区切りをつけたって言うのに。
どうしてこうもいつも。
俺はなんにもなくなるんだろう。
そう湧き出る気持ちが、いよいよ俺の精神を覆い尽くそうとしたって時だった。
お前がもし、こうして還ってきてくれなかったら。
もしかしたら今度は俺が第二のヴァンデスデルカになっていたかもな。
そうへらりと笑ってみせると、お前は苦しそうな、痛いような笑みを浮かべて「そうか」と静かに答えてくれた。
そして俺はその表情に吸い寄せられるように顔をゆらと近付けて、ゆっくりと食む様な口づけを送る。
お前はなにも言わず、ただただそれを受け入れて、俺の頭をさわさわとなでてくれた。
俺はそれに酷く安心して、堪らず頭を下の方にずらし、ルークの脇腹あたりにしがみ付くように抱きつく。
そうするとルークはまた優しげに俺の頭に手を載せ、優しく温かく包みこんでくれる。
その昔奪われた日だまりのように。
理由なく愛される温かな家族のように。
その感じるじんわりとくる熱に、俺はつい鼻の奥がつきりと痛んだのだった。
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