ミヤコワスレ
戸が開け放たれた、開放感溢れる畳の一室で、姫葉と和葉は本を読んでいた。
俗に言う、夏休みの宿題の読書感想文というやつのために。
姫葉は一度本を閉じ、和葉を見ながら問い掛けた。
「和葉って髪切らないの?」
「…なによ、突然」
唐突過ぎる親友の質問に、和葉も本から目を離す。
「だって、長すぎない?たまに踏んでるよ」
「…あたしだって切りたいわよ」
「? え、切っちゃ駄目なの?」
「成人の儀が終われば切って良いけど、それまでは伸ばしっぱなしよ」
「…そういうもんなんだ?」
「あたし御飾りだもん、本当なら身なりもちゃんとしてなきゃ駄目だけどさ」
うんざりしたように言う和葉に、姫葉は苦笑する。
この忍びの里では普通、姫と呼ばれる者は外に出ることはまずない。
綺麗に着飾って、里の者に大切に愛でられながら生きていくのが、本来あるべき姿。
だがその生き方に不満を抱き、皆と同じように生きたいと、和葉は申し出た。
勿論初めは誰もが大反対したが、それでもちょくちょく部屋を抜け出しては遊びに出ていたのを知り、結局最後は長が折れたため今のような自由奔放な生き方をしている。
それでも、自らが里の姫という自覚はあるのか、最低限のしきたりなどは守っていた。
「でも邪魔なのよねえ…肩凝るし、引っかけるし」
「歴代の姫様も長かったよね」
「ねー。…そういや、逆に姫葉は伸ばさないの?」
「え、私?あー、だって邪魔だし」
「なんだ、てっきり秋葉の好みに合わせてんのかと」
「え、秋葉くん短髪好きなの?」
「…姫葉の髪型なら何でも良いんじゃないのー」
「なにそれ」
意味わかんない、と笑う姫葉に、和葉は少し笑いながら呟く。
「あー、なんか虚しくなってきた」
「何でよ」
「良い男転がってないかなあ」
「え、二葉君良いじゃない。優しいし可愛いしいい子だし」
「あれはただのヘタレですぅー、つーか可愛くてどうするの。格好良くなきゃ駄目」
「椿さんは?優秀だし、格好良いよ」
「お堅いから無理」
「いやいやあ、恋人には案外甘甘かもよ?」
「えー、そーおー?ていうか椿は一生独り身な気がする」
「まっさかー」
「あんまりそういうのに興味ないみたいよ。てかおじいちゃんにしか興味ない」
「…誤解を招く言い方だね」
「一回聞いたの、身を固めないのかって」
「で?」
「"長の傍にいられるだけで満足です"だって」
「わお」
「あたしが思わず固まっちゃったわよ」
「ふふ、違う意味でね」
クスクス笑いながら、和葉は時計を見る。
時計の針は、既に15時を指していた。
「あ、ヤバい感想文書いてない!」
「うわあ、私まだ読み終わってないよ」
「今日までにやっちゃいたい」
「ね。よし、集中集中…」
むん、と本に向き合おうとする二人。
しかしながらタイミングよく、椿がお茶とお茶菓子を持って現れる。
「お疲れ様です、休憩にどうぞ」
「…だああ!もう!」
「あはは」
「……え、え?」
ミヤコワスレ
「取り敢えず、お茶してから再開よ!」
「はーい」
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