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ハイビスカス


「やーいやーい!」

「返して欲しかったら取ってみろよ〜!!」


いつもの、当たり前になりつつある、光景。

金髪の幼い少年が、同じ年頃、或いは年上の少年たちに囲まれて泣いていた。

一目見て分かる、いじめ。

道行く人は知らん顔で通り過ぎ、それに気をよくする少年たちは更にヒートアップする。

奪い取った靴を踏みつけ投げつけて。

泥団子を作っては、少年にぶつけていた。

その泥団子に、小石を入れて投げ始めると、金髪の少年の顔には傷が出来始める。


「いたっ…や、やめてよおっ!」

「うるせえ悪魔の子!」

「みんなで飼ってたウサギも金魚も、全部お前のせいで死んだんだ!」

「悪魔の子!だからお前の親は居なくなったんだ!」

「ち、違うもんっ!僕のせいじゃないもんっ!」

「ウソ言うな!!悪魔の子!お前なんかどっか行っちゃえ!!」


大きな石を包んだ泥が、少年に向かって勢いよく飛んでいく。

だがそれは、少年に当たる前にバシッと地に落ちた。

よく見ると、少年の前には少年少女が並んで居る。

黒髪の少女が、すうっと息を吸い込んで


「よってたかってなにしてんのよ!最っ低!」


そう、叫んだ。

いじめられていた少年も、いじめていた少年たちも、みなきょとんとして少女を見つめる。

やがていじめていた少年たちの一人が、小さく声をあげた。


「ひ、和葉さま…!」

「おい、秋葉さんと姫葉さんも居るぞ」



周りの少年たちはさっと怯えたような表情を浮かべた。

少女――和葉は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、鼻を鳴らして言う。


「あんたたち、よぉく聞きなさい!」

「は、はいっ」

「この子はなんにも悪くないわ!それなのにいじめるなんて最低よ!!里の恥よ!!」

「で、でもコイツが当番の日にウサギたちが死んで…!」

「それは、この里に魔物が入ったせいで死んだんだよ」


茶髪の少女――姫葉が、口を開く。


「小屋の中に、ウサギによく似た魔物が居たの。その子がみんなを殺して、金魚も食べちゃった」

「…タヌキ、月夜、蜂の巣」

「秋葉は黙って」

「…」

「とにかく!勝手に変な言いがかりつけないでよね!それにいじめなんてバカな真似はよしなさいよ!」


和葉が怒鳴ると、いじめていた少年たちはばつが悪そうに少年の靴を差し出す。

それから蜘蛛の子を散らすように逃げていく少年達を見て、少女はまた強く叫んだ。


「こらあ!謝りなさーいっ!」

「いいよ和葉、先ずは二葉君の怪我の手当だよ」

「え?…な、なんで僕の名前…」

「名前くらい知ってるわよ。あたしには里一番の情報屋が居るんだもの」

「…はあ」

「…大丈夫?立てる?」

「あ、はい…」

「二葉くん!」


和葉はニカッと笑って手をさしのべる。


「友達になりたいって思ってたの。今日探したのよ」

「え…」

「ね、友達になりましょ?」


ギュッと無理やり手を取って握る。

二葉は驚いて目を見開くと、直ぐその目をまた涙でいっぱいにした。


「な…なんで…友達居ないからって、同情でなるならいらないよっ!」

「え、あんた友達居ないの?」


……


「…和葉、うん。まあ、仕方ないかな」

「な、なによ!」

「…流石」

「だからなによ!」

「…僕が、友達居ないの…知らないの…?」

「知らないわよそんなの!あたしただ"可愛い子だなあ"って思って気になったから友達になりたいって思ったのよ!悪い!?」


一気にまくし立てる。

姫葉は笑い、秋葉は驚きのあまり固まった二葉の肩をポンポンと叩いた。


「…ごめん、なさい…僕…」

「良いわよ…もうっ。で?友達になってくれるの?ダメなの?」

「だっ…ダメじゃないよ!!」

「そ。なら宜しくね、二葉!」

「!」







ハイビスカス











「なにニヤニヤしてんのあんた」

「ちょっと昔を思い出してさ」

「あっそ」


僕の初恋は、


きっとあの時から








あきゅろす。
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