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ショウジョウバカマ


人気のない、木々が鬱蒼と生い茂った森の中。

春になったばかりの季節だが、未だ雪や氷柱が垣間見える。

そんな中、一人の少年が冷たい滝に打たれていた。

紅い髪が印象的な少年は、ただジッと滝に耐えている。

その少年のすぐ傍には、褐色肌の少年の姿。

頭に獣耳、額には紅い角。頬には赤い模様がついていた。


『こー、そろそろ終わりにしようよ』


褐色肌の少年が、声をかけた。

その言葉に、紅い髪をした少年は垂れていた頭を上げて小さく頷く。

滝から出て、ざぶざぶと川を歩き陸に上がる。

濡れた髪や服が滴を垂らしてじんわりと地面を濡らした。


「うお、寒い」

『当たり前、まだ寒いもん。はい、紅魔。タオル』

「あ、ありがとな、狂魔」


褐色肌――狂魔から、タオルを受け取って頭を拭いた。

タオルは次第に水気を吸い取り、湿り気を帯びる。


「へっくし!…あー」

『汚いなあ。こー、風邪なんか引かないでよ』

「あいあい、分かってる」

『こー、さっさと着替えて戻ろ。アカネたち待ってるよ』

「今日って何だっけ、野菜炒め?」

『こーの好きなロールキャベツだってさ』

「あ、マジでやった!」


無邪気に笑う紅魔に、狂魔も自然と笑顔に変わる。


『じゃあ小屋に…』

「なあ狂魔」

『ん?』

「お前、人間は好きか?」

『!』


狂魔の笑顔が、ピタリと固まった。

それを見ない振りをして、紅魔は空を見上げる。


「この世界には、いろんな生き物が沢山住んでる」

『…う、ん』

「俺は、この世界を愛してた」

『……』


狂魔は黙って聞きながらも、内心は凄く焦っていた。

紅魔の考えは、精神獣である自分にも分からない。

見ようとすることは可能だ。

だけども、見ようとすると深い深い闇の中に飲まれそうになる。

紅魔はこれからどうしたいのか、どうすべきなのか、多分紅魔自身でも分かっていない。

そういうとき、必ず狂魔に不思議な問い掛けをし出すのだ。

いつもなら、気軽に答えることが可能な問い掛けだが、今回は違う。

最近、紅魔はおかしいのだ。

"人間が憎い"とか"世界を壊す"だとか、何かの夢に魘されながら、そう呟いている。

そんな事があって、今のこの問い掛けには迂闊に答えることが出来ない。


「…狂魔?」

『えっ、あ…え?』

「ボーっとして、どうかしたのか?」

『ど、どうもしないよっ』

「そうか?…って、悪い。俺のせいだよな」

『えっ』

「変な質問してごめん。忘れてくれ」

『あ…』


苦笑しながら、紅魔は小屋に向かって歩き出す。

狂魔は慌てて、紅魔の腕を掴んだ。


『紅魔っ』

「うおっ」

『あっ…あのなっ!オイラ、人間好きだぞっ』

「…狂魔?」

『そりゃっ嫌な奴とか居るけど…でもオイラ、人間好きだぞっ』

「…」

『…紅魔が、人間嫌いでも…オイラ…』

「嫌いじゃねーよ」

『え?』


ようやく、顔を合わせる。

そこには、優しい紅魔の笑顔。


「嫌いじゃない。ただ、少し人間とは関わりたくねえんだ」

『…紅魔、オイラ…この世界も好きだぞ』

「…そっか」

『……』


なにも言わず、また小屋に向かって歩き出す紅魔。

 余計な事を言ってしまった?

 不快な思いをさせてしまった?

 嫌われて、しまっただろうか…?

自分の発言に少々焦りながら、紅魔のあとをついて行く狂魔。

ふと、紅魔が振り返った。


「なら、壊すわけにいかねえな」

『え…?』

「お前が好きって言うなら、俺も好きなんだって事だしな」

『…こー』

「もう一人の俺が言うなら、壊さない。俺が、望んでないって事だから」

『…こー、あの、オイラ…』

「ん?」

『…オイラ…紅魔がしたいって思ったり、するって決めたら、止めない。従うよ』

「……」

『こーはね、ちゃんと、オイラに聞いてから判断するから…だから、止めない』

「……」

『…オイラを、もっと頼ってね、こー』

「…分かってる。頼りにしてるぜ、相棒」











ショウジョウバカマ










オイラに頼ってくれる内は


まだ、希望がある







あきゅろす。
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