3時15分の悲劇
「あ、見て見て静雄」
「あぁ?」
新聞を見ていた静雄は、俺の呼びかけに面倒くさそうに顔を上げる。
折角の休みなのに、俺が邪魔したからと面倒くさそうだ……まぁ、それでも追い返されはしなかったんだけど。
朝飯、昼飯と世話になったので、俺は黙って携帯をいじっていた、のだが。
「ほら、ほら。これ」
「……何だよ?」
「見てよこれ!」
指をさして携帯を差し出しているというのに、静雄はどこを見ていいか分からないらしい。
「どこを見ろっつーんだよ?」
「だからその、小さな画面!」
「……なんもねーだろうが」
えっ? と言って携帯を反転させると、確かに、その画面には何も映し出されてはいなかった。
俺は開いた大きな画面を見せたわけではない、裏側に付いている小さな画面を見せたわけだ。
そこはボタンを押せばメールや電話がきているか確認できたり、時間を表示させることができる。非常に便利だ。
先程俺はボタンを押して静雄に見せたにも関わらず、静雄がこっちを見るのが遅かったせいで、表示が消えてしまったらしい。
「全く……静雄の馬鹿。もっと早く見ればいいのに」
「俺に文句を言われても……て、メールきてるぞ、澪士」
「えっ」
――どうやらまた、失敗したらしい。折角またボタン押し直したのに!
メールがきていると時間の表示はされずただそのお知らせだけになる。
全く、俺は静雄に時間を見せたいのに!
誰だよと携帯を開いて確認すると、送信元に凄まじい殺意を覚えた。
『シズちゃんとラブラブするの、いい加減にしたら?』
……もういい。臨也のアドレスは消して迷惑メールフェルダに入るようにしてやろう。
てか何で知ってるんだよ。盗聴器でも仕掛けてんのか?
(大体……ラブラブなんて、してない。)
「静雄、静雄! 早く見て!」
「あ?」
仕方ない、と裏面に表示するのは諦め、俺は携帯を開いて静雄に突き付ける。
そこには先程まで俺の見ていたサイトが表示されているが……まぁいいだろう。
「? 何だコレ俺の名前が書いて……って」
「ち、違う違う! 静雄、右上!」
時間のところだよぅ、と泣きそうになりながら言うと、静雄の視線は移動する。
俺は声を潜めて待った。静雄はどんな反応をしてくれるのだろう、と。
「……時間? 時間がどうしたんだよ」
「だから!」
なんか分かんない? とさすがに泣きそうな声で言うと、静雄は少し黙って時間を見てから口を開いた。
「……3時16分だな」
「えぇ!?」
ばっと携帯をひっくり返す。
すると右上には『15:16』の文字……すぐに、17分になったけど。
流石の俺もくじけかけて、床に頭をめりこませた。
「ちょ……澪士!?」
「う……折角、15時15分だったのに……」
悲しい、と言うと、静雄がは? と言う。
「15時15分が何だって?」
「同じ数字!」
「………………はぁ」
何だよその妙な間は!
折角、いつまで一緒に居れるか分からないからという理由でその数字を喜んだのに、肝心の相手が何も興味を示していないとは。
もういい、と携帯をしまい、いじける様に静雄に背を向ける。
「……おい、澪士」
「…………」
「おーい」
「………………」
腹いせに無視してやろうと、俺はだんまりを決め込む。
すると背後から静雄の手が伸びてきて、俺の携帯を手の中から奪って。
「何す、」
「15時15分なんて、何回でもあるだろ? それこそ明日でもよ。だからそんな事でいじけんじゃねーよ」
「……え」
ふい、と振り返ると、俺の携帯を取り上げた静雄とばちりと目が合う。
うわぁ……恥ずかしいなぁ……サングラスを取った静雄を見るのは久しぶりで。
俺は静雄より先に、目を逸らしてしまった。
「……でも、てことは、さ」
「あ?」
視線を逸らしたまま言う。
「それは……明日の3時15分も、此処に居ていいって事だよね?」
「! それは……ッ」
「大丈夫」
視界を戻すと、今度は静雄が照れる番だった。
何だか可笑しくなって、俺は静雄の頬に手を伸ばす。
「俺、着替えも持ってきてるから」
(……って澪士、お前泊まる気かよ!?)
(え? うん、勿論。……だめ?)
(いや……駄目じゃねぇけどよ……)
(ほんと? 嬉しい!)
10-9/4
(というか3時だから、てっきりおやつでもねだりだすのかと思ったんだけどな)
(! おやつ!?)
(あぁ、お前は毎回出さなきゃ怒るだろ……って)
(おやつ、おやつ! 食べたい食べたい!)
(くそ……言わなきゃよかった)
1ヶ月&1000HIT記念企画。
最近同じ数字の時に時計を見ることが多いので。
ちなみに、澪士君がどんなサイトを見ていたかというのはご想像にお任せします。
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