その他 終わりと、それから [Free!] 天高く空が青く澄み、穏やかな春のある日。 岩鳶高校は、卒業式を迎えた。 「はるちゃん、まこちゃん!卒業おめでとう!」 「お二人とも、おめでとうございます」 「おめでとうございます!お兄ちゃんも今日が卒業式だそうですよ!」 卒業式後、二人で教室から出たところを捕まえられ、部室へ連れ込まれた真琴と遙。 おめでとう、という言葉たちに、戸惑いを覚えながら笑顔を返す。 「2年間、ありがとう。渚や怜や江ちゃんに、たくさんの思い出をもらったよ」 「…ありがとう」 普段よりも少し悲しげな表情で笑う真琴と、いつもより俯いた様子で礼を言う遙。 もう、この部室に来ることは無いのだと思うと、沢山の思いがこみ上げてきた。 「これからの部活は、任せてね!僕たちがちゃんと、岩鳶水泳部を育てるから!」 「渚くんが部長なのは不安ですが…僕もできる限りのサポートをします。安心して卒業なさってください」 「私も、皆の成長をきちんとお世話しますよ!」 そう言い、渚の「せーの…」という掛け声とともに、目の前に花束と袋が差し出される。 「これ、僕たちから!」 「みんなでお花とプレゼントを選んだんですよ!」 「受け取ってください、先輩!」 差し出されたものを、ゆっくりと受け取る二人。 真琴の方は、ピンクやオレンジといった、明るい色の花束。 遙の方には、白や薄紫、黄色といった、落ち着いたカラーリングの花束が渡された。 「色紙も書いたんだよ!ここにはいないけど、1年生からのメッセージもたくさん詰まってるから、みんなの顔を思い出しながら読んでね!」 「みんな、一緒に渡したがっていたんですけど、1年生は家庭学習日で登校出来ないので…」 「そっか…みんな、本当にありがとう。大切にするよ、ね、ハル?」 「…あぁ」 相変わらず下向きのまま返事をする遙。照れくさいのだろうかと、真琴が覗きこもうとしたところで、渚からの声が掛かる。 「じゃあ最後に、まこちゃんとはるちゃんからも一言お願いしまーす!」 「お願いします」 ええ!?と、突然の振りに驚く二人だが、期待を込めた三対の目で見られては断ることできず… 「えーと…2年間、本当にありがとう。楽しい思い出も辛い思い出もあるけど、皆と部活が出来て、本当に楽しかった。 ここにはいないけど、1年生にも、本当に感謝してるよ。 2年生は3人しかいないけど、これからの部活、支えていって欲しいな。 本当に、ありがとうございました!」 微かに涙目になりながら一礼する真琴を、拍手と共に見つめる三人。 その視線は、自然と隣の遙へ向けられる。 「ハル、最後だから…」 「…わかってる」 手に持った大きな花束を見つめ続けていた目が、不意に正面を向く。 そして、今までに聞いたことのないくらい、流暢に話し出す。 「渚、怜、江。2年間、本当にありがとう。何も教えることは出来なかったけど、最後まで一緒に活動してくれて、嬉しかった。 渚。水泳部を作ってくれて、ありがとう。渚がいなければ、俺は二度と競泳をしなかったし、学校のプールで泳ぐこともなかった。思い出を作る機会をくれて、ありがとう。 怜。陸上をやめてまで、水泳部に入ってくれてありがとう。最初の大会、怜のお陰で凛とのわだかまりもなくなった。お前の成長を、心から祈ってる。ありがとう。 江。マネージャーとして、水泳部を支えてくれてありがとう。江のお陰で、鮫柄と練習したり、他校と試合をしたり出来た。これからの水泳部も、支えていって欲しい。ありがとう。 そして…」 ふと、言葉が止まる。四人は遙に視線を向けると、そのまま目を見開いて固まった。 花束の上に、ぽつり、ぽつりと、水滴が次々に落ちていった。 今まで堪えていたかのような勢いのそれに、つられて涙ぐむ四人。 「…真琴。3年間…いや、18年間、ずっと傍にいてくれてありがとう。お前がいなければ、人と絡んでいくことも、自分の考えていることを伝えることも出来なかった。お前がいたお陰で、今の俺がある。本当に、ありがとう…っ」 言い終わると同時に、真琴は泣きながら、遙を腕に抱えていた。 今まで見たことのない様子に、思わず身体が動いてしまっていたのだ。 そんな二人を見ていた後輩たちも、目に涙を浮かべたまま、遙に抱きつく。 「まこちゃん、はるちゃん、大好き!卒業しないでよー!!」 「先輩たちのいない部活なんて、嫌です…!」 「もっと皆の泳ぐ姿を見ていたかったです…!!」 どれくらいの時間がたったか…別れを惜しみ、それぞれの帰り道を進んでいった。 真琴と遙は、いつもの道を、周りの景色を見ながら歩いていた。 「…もう、この道を二人で帰ることもないんだね」 「…そうだな」 「頑張ってね、ハル。俺も頑張るから」 「…分かってる。お前こそ、都会が怖くなったからって、戻ってくるなよ」 互いを見ることなく、続けられる会話。 最後の景色を、目に焼き付けるようにして歩く。 そんな二人の正面から、名前を呼ぶ声がした。 「ハルー!真琴!」 「…あれ、凛?」 「なんであいつが…」 困惑する二人を尻目に、制服姿の凛が駆け寄ってくる。 「江から、お前らも卒業だって聞いてな。三人ともバラバラになるんだから、最後くらい話してぇと思ってよ」 「…俺は話すことなんか…」 そう言って、くるりと後ろを向いてしまう遙。 何かを察した真琴は、苦笑いを浮かべて見ていた。 「つれねぇなハル、せめてこっち向けよ」 「嫌だ。真琴と話してろ」 「いくら真琴と話しても、お前と話せなきゃ来た意味ねぇだろ。いいからこっち向けよ!」 「嫌だ!」 かたくなに拒む遙。 不満そうに遙を見つめる凛の耳元で、真琴がそっと呟く。 「ハル、多分見られたくないんだよ。凛に情けないと思われるのが嫌なんだと思う」 「情けない?何が……あぁ、なるほどな」 察し、にやりと笑った凛は、後ろを向いている遙の背中から抱きつく。 「凛、何を…っ」 「ハル、お前、俺に会って泣きそうなんだろ?つーか、むしろ泣いてるんだろ。 お前の情けないところなんて、ガキの頃から見てんだから、今更気にすんなよ。最後くらい、顔見て話そうぜ、な?」 しばしの沈黙。くるりと振り返った遙は、凛の胸ぐらを掴み… 「誰がお前に会って泣きそうなんだ。それに、情けないところなら、俺の方が凛の情けないところを見てる。だから…」 そこまで言ったところで言葉につまり、手を離す。 そしてまた、後ろを向いてしまう。 「もう…ハル、我慢しなくていいから、おいでよ」 遙の前に回り込み、腕を広げると、遙はすっぽりと、真琴の腕に包まれる。 「凛、こっち」 「お、おう…」 呼びかけられ、遙の表情が見える位置まで行くと、そのまま固まった。 先ほど、渚たちの前で涙腺がゆるんだままだったのか、今まで見たことのない様子で真琴に泣きつく遙がいた。 そんな遙を見て、こちらも我慢していたのか、真琴や凛もつられて涙ぐんでしまう。 「…最後くらい、いいよな?」 「うん、二人とも、ほんとにありがとう」 周りの目を気にせず抱きつき、しばらく泣き続けていた。 そんな三人を照らすかのように、夕日が差し込んでいた。 ─After─ 「…ったく、泣き疲れて寝るとか、子供かよ…」 「まあまあ。こんなに泣いたの久しぶりだろうから、疲れちゃうのもしょうがないよ」 「重くねぇのか、真琴。途中で代わるぞ」 「大丈夫だよ。凛も、鮫柄から来て疲れてるでしょ?ハルの家で、少しゆっくりしていこうよ」 「…自分の家のようになってんな。ま、元々そのつもりだったし、邪魔するぜ」 「うん。…それにしても、ハルが大泣きしたの初めて見たなぁ」 「俺も。ちゃんと人並みに感情があって安心したぜ」 「はは…凛、今日泊まっていかない?俺は泊まってく約束してたから、凛も一緒に」 「今日くらい家族と過ごせよ…。まぁ暇だし、ハルが起きたら聞いてみるわ」 「…また、皆で集まろうね。渚も怜も江ちゃんも一緒に」 「当たり前だろ。それまで…」 寂しくなるけど、それぞれ頑張ろうな── 管理人の卒業記念←おい 蒼空と美琴(Link参照)と三人揃って好きなアニメでFree!があったので、それに因んで。 蒼空、美琴、これをご覧の卒業生、そして私!← ゚・*:.。.祝・卒業.。.:*・゜ [*前へ][次へ#] |