[携帯モード] [URL送信]

夏ホラーレビュー
アオキチヒロ「ミス・モンストル・サクレ、君は世界に殺される。」
美しく瑞々しい言葉で語られる聖なる悪夢
読む

 アオキチヒロさんという人は、とにかく不思議な空気をもつ作品を作る。それは時にさびしかったり、悲しかったり、たまらなく空虚であったり、おぞましいほど瑞々しかったりする。読み終わった後にその空気は尾を引いて、しばらく気持ちがアオキチヒロ色に染まってしまうのだ。

 そんな彼女が書いた「ミス・モンストル・サクレ、君は世界に殺される。」もまた、実に不思議な空気を漂わせている。

 主人公の相場正義は短い夏の間に観察のアルバイトをすることとなった。モンストル・サクレというそれは、小学生の自由研究で使う観葉植物やウイルスを植えつけた鼠とは一線を画している。人間の、少女なのだ。
 この奇妙かつ大胆な発想を基盤に、モンストル・サクレという五感の良い単語がひとつのキーワードが軸となって物語は展開していく。

 ただの少女だと思いながら鬼ごっこの相手をしてやり、それを楽しむ観察する者、主人公。彼は少女と交流をしていくうちに、少女の持つ特異性を知っていく。
 少女の可憐な存在、その唇から放たれる、安全剃刀のように不安定な痛みを持つ言葉の数々。それがモンストル・サクレという鍵穴に収まる時、身の毛もよだつ真実という部屋が開かれる。

 その部屋に吹く風こそ、アオキチヒロの空気、余韻。
 他ではなかなか味わえない個性を堪能して欲しい。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!