SS by astra
幻想の郷の兎さん〜The Rabbit in Wonderland〜 霊夢
交流☆わはー第3回SSコンテスト【スイーツ(笑)】優勝作品。
「いい天気ねぇ・・・ずっとこんな天気ならいいのに。」
空には雲ひとつなく、博麗神社は晩春の暖かな日差しにつつまれていた。霊夢は神社の縁側に座ってお茶を飲みながら、間もなくやってくるであろう梅雨に思いを馳せる。
「平和ねぇ。」
呟きながら巫女はため息を漏らす。呟いた独り言の内容とは裏腹に。
「退屈だわ・・・ん?」
空を見上げていた霊夢は、真っ昼間だというのに西の空に流星を見た。その流星は、星屑を散らしながらまっすぐ神社に飛んでくる。
「また騒がしくなるわね。」
呟きながら巫女はため息を漏らす。
「よう、霊夢!お茶を飲みに来てやったぜ!」
「あ、霊夢。良い紅茶が手に入ったから持ってきてあげたわ。」
箒にタンデムしてやって来た魔理沙とアリスを、霊夢は、つとめて迷惑そうな顔を作りながら迎え入れた。
「何でお茶請けがせんべいしかないのよっ!紅茶にあいそうなお菓子はないの!?」
神社にアリスの声が響き渡る。
「うるさいわねぇ。私は普段日本茶しか飲まないの。日本茶にはやっぱりせんべいでしょ。だいたい図々しいのよ。勝手に人のうちに押しかけてきて。文句あんなら帰んなさい!」
「私はもともと霊夢のところに何かあるなんて期待してないけどな。」
それぞれにかしましい嬌声を上げながら、アリスがお茶を入れ、霊夢がお茶請けを用意し、魔理沙が好き勝手にくつろぐ。そうして3人娘のお茶会が準備され、それぞれにアリスが入れた紅茶に手を伸ばした。ところが。
「!?」
紅茶のカップをつかむはずだった霊夢の手が空を切る。
「ごきげんよう。いいもの飲んでるわね。」
「かえれ。」
霊夢のカップで紅茶を飲みながら突然湧いて出た八雲紫に、霊夢はにべもなく言い放つ。
「あらぁ。いいのかしら?そんなこと言っちゃって。せっかく紅茶によく合うスイーツ(笑)を持ってきてあげたのに。」
そう言うのと同時に、紫はスキマから箱を取り出した。箱から出てきたものを見て、魔理沙が尋ねる。
「何だこれ?一見変な形したパンにしか見えないぜ。」
「外の世界のお菓子。クグロフっていって、スライスしたアーモンドや干し葡萄をいれて焼き上げたブリオッシュの一種よ。」
「変な名前ねぇ。何でそんな名前にしたのかしら?あと、紅茶返せ。」
「まぁ、外国のお菓子だからねぇ。私たちには聞きなれないかもしれないけど、外国人にとっては普通の名前よ。クグロフは『僧侶の帽子』って意味で、形が似てるからそう名付けたんじゃないかしら?あと、紅茶は・・・」
紫は霊夢のどこかずれた問いに答えると、紅茶を飲み干す。
「もう飲んじゃったわ。」
「お菓子置いてかえれぇ!」
霊夢は紫に、せんべいを投げつけた。
結局、アリスが紅茶を入れなおして、紫を加えた4人でのお茶会が始まった。お茶会の途中、ふと、アリスが言う。
「イカれたお茶会ね。」
「んぁ?どういうことだ?確かにいつもとちょっと違う面子ではあるが。」
魔理沙がアリスに尋ねる。お茶会となると面子は大抵、霊夢、魔理沙、アリスの3人だ。たまに吸血鬼とそのメイドが加わることもあるが、八雲紫が昼間から神社に来ているのは珍しい。
「そうじゃなくて、マッドティーパーティーよ。」
「あら。貴女にしてはなかなか気の利いた喩えね。」
魔理沙より先に紫が話に食いつく。
「英語にされたら余計分かんないぜ。」
「だから、私はアリスで、帽子のお菓子を持ってきた紫は帽子屋さん、霊夢はウサギでしょ?それに魔理沙はネズミじゃない。この前うちから本盗っていったでしょ。読んでないの?」
まだ話を理解していない魔理沙に、アリスが説明する。
「ああ、そういうことか。って、ちょっと待て!紫がイカれた帽子屋ってことと、霊夢がウサギなのには同意するが、なんで私がネズミなんだ!?」
「あれ、知らなかったの?紅魔館じゃ貴女のこと泥棒ネズミって呼んでるらしいわよ?」
「本は借りてるだけだ!泥棒なんて心外だぜ。」
盛り上がるアリスと魔理沙。全てを理解してにやにや笑っている紫。ひとり話についていけない霊夢が叫ぶ。
「ちょっと待て!何のことだかさっぱり分かんないわ!日本語で話しなさい!私がウサギってどういうことよ!?」
それに対して3人は、異口同音に答える。
「あら、霊夢。アンタってウサギそのものじゃない。」
「そうだな。ウサギだな。」
「ウサギねぇ。そんな貴女にはこれがお似合いよ。」
紫がスキマを開き、手を差し込む。そして取り出したのはうさ耳バンド。
「さぁ、魔理沙、アリス。霊夢を押さえつけて頂戴。」
魔理沙とアリスが笑みを浮かべて、ゆっくりと、霊夢に近づいていく。
「な…何よ、アンタら!?ウサギに萌えたければ永遠亭にでも行けばいいじゃない!きゃ、ちょっと、や、止めt…」
甘いものを囲んではしゃぐ少女たちの嬌声が、幻想郷に木霊する。
人間に安全を約束する太陽はとうに沈み、幻想郷の真の支配者たちが跋扈し始めた頃、魔理沙達が帰って静まりかえった神社で、巫女は、何をするでもなく、ただ寝転んでいた。
(桃の缶詰様より挿絵を戴きました)
今日は晩御飯食べなくてもいいかなぁ。昼にお菓子たくさん食べたしね。
嘘。これは言い訳。
本当は一人じゃ何もする気が起きないだけ。
昔は一人でも平気だったのにな。いつからだろう?一人が辛くなったのは。
私って、ウサギだ。
今更気付く。
私って、ウサギだ。
寂しくて死んじゃいそう。
そのとき。
「霊夢〜。寝ているの?起きなさい!遊びに来てあげたわ。咲夜特製のマドレーヌもあるわよ!」
玄関の方から響いてきたのは吸血鬼の声。
霊夢はあわてて跳ね起き、明かりを点け、にやけそうになる頬を引き締めて、玄関に向かう。
そして、玄関にいた吸血鬼とそのメイドに、迷惑そうなそぶりを見せながら言う。
「うるさい!人間は夜は寝るものなのよ!兎に角、玄関で騒がれちゃ迷惑だからとりあえず上がりなさい!」
2人を神社に上げる。
「あらあら。近くに騒いで困るものなんてないのに。ねぇ、お嬢様?」
「そうねぇ。紅白のウサギは素直じゃないわ、咲夜。」
勝手なことを言いながらついてくる2人を案内しながら霊夢は思う。
―今夜の月が何色なのか知らないけど、楽しい夜になりそうね。
うされいむで、つんでれいむで、愛されいむ。霊夢かわいいよ霊夢。
マッドティーパーティーとは「不思議の国のアリス(Alice in Wonderland)」の1シーンで、三月兎、いかれ帽子屋、眠りネズミのお茶会にアリスが迷い込む場面です。
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