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SS by astra
そんなハッピーエンドで大丈夫か? 魔理沙
 こうして灰かぶりは王子様と結婚し、幸せになりました。めでたし、めでたし。ハッピーエンド。

 こうして白雪姫は王子様と結婚し、幸せになりました。めでたし、めでたし。ハッピーエンド。

 こうして人魚姫は王子様と結婚できず、泡と消えてしまいました。めでたし、めでたし。ハッピーエンド?ハッピーエンド。

−そういうことなの。それなら1/1スケールの魔理沙人形でも造ってあげましょうか?行動パターンのプログラムには何年もかかるだろうけど、やってやれないことはないわ。あとは定期的に魔力を補給すれば、私が生きている限り半自律的に動くの。何なら夜のお供だってできちゃうわよ?

 なんてことを言いやがるんだ。非道いと思わないか?

−そう。アリスは優しいのね。いえ、何でもないわ。この件に関して私から言うべきことは何もないわ。研究の邪魔だから出て行って頂戴。あ、その本は駄目よ。置いていきなさい。

 なんてことを言いやがるんだ。冷たいと思わないか?結局本も貸してくれなかったし。虫に関する本だったんだが。

−あらあら、パチュリー様もツンデレね。何でもないわ。独り言よ。ま、貴女がそうしたいって言うんなら、仕方がないけど。私なら逆ね。例えば、私がいなくなった後、お嬢様が私のことを偲んで泣き暮らすなんて、最高じゃない?ゾクゾクするわ。貴女はもう少し、自分に素直になってもいいと思うわ。



「なんてことを言いやがるんだ。まったく、あいつは変態だぜ。」

 日が西に傾き幻想郷が赤く染まり始めたころ、アリスの家、紅魔館を訪ねた後に、魔理沙は私のところへやって来た。大切な話があると、手土産にお酒を持って。

「咲夜ももっとはっきり言ってやればいいのに。」
「何のことだ?」
「何でもないわ。」

 誤魔化すように、杯を傾ける。魔理沙の持ってきたお酒はとても飲みやすく、するするとのどに流れ込んでくる。あっという間に空いてしまった私の杯に、魔理沙がお酒を注いでくれる。明日は二日酔いを覚悟しなければいけないかもしれない。

「ところで魔理沙?」
「んぁ、何だ?」
「私のところに来るのがいちばん最後というのは、どういうことかしら?」

 中身が少なくなってきた魔理沙の杯に酒を注ぎ足してやりながら、魔理沙を半眼でにらむ。
 魔理沙は私のいちばんの親友だ。魔理沙は人気者だが、魔理沙と一緒にいる時間は私がいちばん長い。今回の件だって、いちばん相談に乗ってやったのも、いちばん協力してやったのは私だ。・・・と思う。だから、魔理沙もいちばんの親友は私だと思ってくれている、というのは自惚れだったんだろうか。
 それにしても、仮にいちばんじゃなかったとしても、私が最後だなんて。私は怒っていい。

「何のために酒を持ってきたと思ってるんだ?」
「飲むためでしょ?お酒にそれ以外の用途があったかしら?」
「酔っ払うためだ。」

 そう言って魔理沙は、お酒がなみなみと入った杯を一気に傾ける。少しお酒が零れて、魔理沙の服に染みをつける。透明なお酒だから、乾いてしまえば目立たなくなるだろうけれど。
 お酒を飲み干して、魔理沙は杯を床に置く。空になった杯にお酒を注ごうと、私が酒瓶に手を伸ばそうとした瞬間、魔理沙が急に抱きついてきた。

「え、ちょっ、魔理沙!?急に何よ!?」
「――――」

 嗚咽。鼻をすする音。肩も震えている。魔理沙は、泣いていた。

「あいつらにしてきたのは、ひっく、報告だ。いろいろ世話になったからな。でも、お前のところに来たのは、報告じゃない。慰めて、ひっく、くれよ、霊夢ぅ…」

 自分で決めたこととはいえ、辛かったんだろう。
 あんなに好いていた霖之介さからの求愛を拒絶してしまったのだから。
 もうずっと前から魔理沙は霖之介さんに好意を寄せていた。私たちは何度も、魔理沙の恋を肴にお酒を飲んだ。そして、どうしたら魔理沙と霖之介さんがうまくいくのか相談し、皆で協力もした。それがついに功を奏したのか、昨日、霖之介さんが魔理沙に告白した。
 なのに、魔理沙はその告白を拒絶した。
 タイミングが悪かった。つまるところはそれだけのことだったと、私は思う。

 霖之介さんが告白する数日前、魔理沙は外の世界の童話集を読んでいた。シンデレラ、白雪姫、そして、人魚姫。

 人魚姫は15歳の誕生日に昇っていった海の上で、船の上にいる美しい人間の王子を目にする。嵐に遭い難破した船から王子を救い出した人魚姫は、王子に恋心を抱く。その後偶然浜を通りがかった娘が王子を見つけて介抱した為、人魚姫は出る幕が無くなってしまう。人魚は人間の前に姿を現してはいけない決まりなのだ。だが彼女はどうしても自分が王子を救った事を伝えたかった。
 人魚姫は海の魔女の家を訪れ、声と引き換えに尻尾を人間の足に変える飲み薬を貰う。その時に、「もし王子が他の娘と結婚するような事になれば、姫は海の泡となって消えてしまう」と警告を受ける。更に人間の足だと歩く度にナイフで抉られるような痛みを感じる事になるとも。王子と一緒に御殿で暮らせるようになった人魚姫であったが、声を失った人魚姫は王子を救った出来事を話す事が出来ず、王子は人魚姫が命の恩人である事に気付かない。
 そのうちに事実は捻じ曲がり、王子は偶然浜を通りかかった娘を命の恩人と勘違いしてしまう。
 やがて王子と娘との結婚が決まり、悲嘆に暮れる人魚姫の前に現れた姫の姉たちが、髪と引き換えに海の魔女に貰った短剣を差し出し、王子の流した血で人魚の姿に戻れるという魔女の言葉を伝える。愛する王子を殺す事の出来ない人魚姫は死を選び、海に身を投げて泡に姿を変えてしまった。

 仮に、誤解が解けて人魚姫と王子が結婚することになったとして、王子は幸せになれるだろうか。人魚姫は幸せになれるかもしれない。でも、人魚姫はしゃべることができず、さらに歩くことにすら、途方もない困難がつきまとうのだ。そんな姫と一緒に暮らす王子は、果たして幸せなのか。
 同様に、人間と半妖が一緒になったとして、半妖は幸せになるのだろうか。一時は幸せでいられるかもしれない。でも、人間はすぐに年をとってしまう。50年後、霖之介さんは若いままだが、魔理沙はおばあちゃんだ。100年後、霖之介さんは今より少しおじさんになっているかもしれない。そのとき、魔理沙はもういない。魔理沙と一緒になって、果たして霖之介さんは幸せになれるだろうか。

 王子様にとっては、人魚姫が泡と消えてしまうことこそがハッピーエンドではないだろうか。

 今、魔理沙はそういうふうに考えてしまっている。霖之介さんが告白したときも、そう思っていた。
 魔理沙が人魚姫を読む前だったら、魔理沙は喜んで霖之介さんの告白を受け入れただろう。
 そして、もう少し時間がたってからであれば、やはり魔理沙は霖之介さんの告白を受け入れたはずだ。きっと、そう遠くないうちに、魔理沙は私たちに自分の考えについて相談してくれていただろうから。そうすれば、私たちは魔理沙の考えが間違っていることを指摘してやれたのだ。

 そう、魔理沙は考え違いをしている。それは、妖怪の特性。
 まず、妖怪は人間より精神的な生き物(中には死んでいるものもいるが)だから、魔理沙が魔理沙である限り、魔理沙がお婆ちゃんになろうが関係ない。
 それから、妖怪は60年周期で過去の記憶を失う。魔理沙が霖之介さんを残して早死にしようが、魔理沙が死んで60年以上たったあと、幻想郷中に花が咲き乱れる頃、霖之介さんは魔理沙を忘れる。かつてレミリアと咲夜がそうしたように、霖之介さんが魔理沙を忘れない選択肢もある。どっちを選ぶかは2人で決めればいい。いずれにせよ、自分が死んだ後のことを心配する必要なんてない。

 私たちが、これを指摘してやりさえしていれば、魔理沙は自分に素直になれていたはずで、今飲んでいるお酒の味も変わっていたはずだ。泣き乍らしっぽりと飲むお酒もそれはそれで美味しいのだけれど、魔理沙の恋話を肴に、和気藹々と飲むお酒のほうがもっと美味しい。

 なのに、最悪のタイミングで、霖之介さんは告白してしまった。なんて間の悪い人。

 それはともかく、結局のところタイミングが悪かっただけで2人は好きあっているのだから、ちょっとのアドバイスでこじれた関係は元に戻る。ううん、今回の場合は前よりもいい関係に発展させることができそうだ。
 それなのに魔法使いときたら、的外れな気遣いばかり。
 確かに、魔理沙人形があれば、魔理沙が死んだ後も霖之介さんが寂しい思いをすることもない。簡単に捨虫の法ができるような研究が完成すれば魔理沙も妖怪並みに長生きできる。そんな面倒くさいことをしなくても、簡単なアドバイスでいいのに。
 咲夜も経験者なんだからもっと分かりやすく伝えてやればいいのに、照れ隠しか何か知らないけど、茶化した言い方をして。この莫迦にはもっと分かりやすく教えてやらないと駄目なんだ。

 やっぱり魔理沙のことは、私が何とかしてやらなきゃ。

 私にしがみついて泣いている魔理沙の頭を撫でてやりながら、私は、心の中で少し安堵していた。魔理沙も、私のことを親友だと思ってくれていることが分かったのだから。
 もう少しして魔理沙が落ち着いたら、魔理沙の間違いを指摘してやろう。そのあと、魔理沙と霖之介さんの今後について考えよう。1回振ってしまったのだ、霖之介さんの性格から考えて、また魔理沙に告白してくることはないだろう。だから、魔理沙のほうから告白するプランを考えなきゃ。そうだ、あいつらも呼ぼう。きっと喜んで来る。アリスにはおつまみを持ってきてもらおう。パチュリーと咲夜にはワインでも持ってこさせようかしら。きっと美味しい。

 左手で魔理沙を抱きしめ、右手で杯を持つ。杯を傾けると、お酒が口に流れ込んでくる。お酒の甘みと少しの刺激を楽しんで、それから飲み込む。体の中から熱く火照る。ああ、美味しいっ!


美味しいお酒が書けて満足。
霖マリと見せかけてレイマリの百合百合なお話でした。ゆっりゆっらら♪

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