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SS by astra
大切な人 りんまり
交流☆わはーイラスレの【私の大切な人】イベントでアカサタさんが描かれたイラストにSSを付けさせて頂きました。



 本を読む振りをしながら僕は、トントントン、と包丁がまな板をたたく音をに耳を傾ける。包丁の音が止むと次は保冷庫を開ける音、何かを洗っているような水音、そしてまた包丁がまな板を叩く音。よどみなく流れる作業。うちで料理をする魔理沙の手つきもずいぶんと手馴れてきた。
 魔理沙がたまに食事を作りに来てくれるようになってそろそろ1年が経つ。初めて作りに来てくれたときは、手つきもぎこちなく、出された食事はお世辞にもおいしそうには見えなかった。でも味自体は見た目に反して美味しかった。最初のうちはやれ塩はどこだ、やれ棚に手が届かない、などと何度も呼ばれたものだが、今では魔理沙も調味料の位置も全て覚え、鍋や食器の配置は魔理沙に取りやすいように並べ替えてある。

「っ・・・!」

 心地よいリズムが急に止まり、代わりに聞こえてきたのは魔理沙の小さな呻き声。僕は本を閉じ、台所へ行く。

「魔理沙。どうしたんだい?」
「な、何でもないぜ!」

 僕の声を聞いた魔理沙は慌てて振り向き、手を後ろに回す。大方指を切ってしまったのだろう。手を隠したのは失敗した姿を見られたくないからか。そういう仕草が、負けず嫌いの魔理沙らしくて可愛い。
 そんな魔理沙を急に抱きしめたくなって、僕は思わず魔理沙に手を伸ばした。
 けれど僕は思いとどまって手の向きを変える。魔理沙の腰に向かっていた左手は、結局魔理沙の頭の上に落ち着いた。危ないところだった、と思う。

「なんだ?急に。」
「いや、魔理沙も大きくなったと思ってね。」

 本心を隠して、思ってもいないことを口にする。

「ばっ馬鹿!子供扱いするんじゃねーよ!」

 魔理沙は真っ赤になって、僕の手を振り解こうと、後ろに回していた手を僕の腕に伸ばす。その手を掴んで、僕は魔理沙に告げる。

「ほら、やっぱり怪我してるじゃないか。いつまでたっても君は世話が焼けるね。」
「だから子供扱いすんなって言ってるだろう!」

 告げる僕は上手に笑えているだろうか。
 魔理沙への思いを内に隠して、穏やかに微笑んでいるだろうか。

 魔理沙に本心を悟られるのが怖い。
 魔理沙に拒絶される可能性を恐れている訳じゃない。
 僕も馬鹿じゃない。魔理沙が僕を好いてくれていることは知っている。魔理沙に伸ばした左手が腰に回ったとしても、そのまま口付けをしたとしても、残った右手で魔理沙の乳房をまさぐったとしても、魔理沙が受け入れてくれる自信は、自惚れじゃあなく、ある。

 僕が恐れているのは、共に時を重ねられない辛さ。そして近すぎる別れ。
 僕は半妖で、君は人間だから。
 母を亡くした時の、父の慟哭を知っているから。

 魔理沙、君はこれからさらに素敵な女性に成長するんだろう。そんな君を目の前にして、僕は自分の心を隠して微笑み続けることができるだろうか。

「僕にとっては、君はいつまでも子供だよ、魔理沙。」



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