SS by astra
HERO COMPLEX りんまり
交流☆わはーイラスレの【ラスボス】イベントでアカサタさんが描かれたイラストにSSを付けさせて頂きました。
【HERO COMPLEX】
「おい、香霖!」
耳に馴染んだ声が夜空に響いた。普段なら心地好さすら感じるその呼び掛けだが、今日ばかりは身が凍る思いがする。
ああ、何てことだ!魔理沙に勘づかれてしまうなんて!
魔理沙にだけは気付かれたくなかった。好奇心旺盛な彼女のことだ。この件にも首を突っ込みたがるに決まっている。
「魔理沙、こんなところで何してるんだい?ここから先は危ない。帰ったほうがいいよ。」
内心の動揺を隠して、努めて冷静に僕は告げる。月を背にしていて良かった。魔理沙からは、僕の表情が見えないから。
反対に僕からは月明かりに照らされた魔理沙の顔がよく見えた。魔理沙は不敵な笑みを浮かべている。魔理沙がこういう顔をするのは、心の内を隠すときだ。魔理沙に内緒で事を進めてきた僕への憤りだろうか。それとも、ひょっとしたらいつもと様子の違う僕のことを心配してくれているのかも知れない。ごめん。
でも今回はいつもの遊び半分の異変とは違う。魔理沙の手に負えるようなものじゃない。
早く魔理沙をここから遠ざけないと。急がなければ、あいつが、あいつが復活してしまう。
「そう言われるとますます先に進みたくなるぜ…って、お、おい、香霖!ありゃ何だ!?」
ああ、遅かったか。魔理沙の指差した方へ振り向くと、そこには『化物』としか形容できないモノがいた。蛸に似た頭部、烏賊のような触腕を無数に生やした顔、巨大な鉤爪のある手足、鱗に覆われたゴム状の躯、背中には蝙蝠を思わせる翼。
(夢乃葉様より挿絵を戴きました)
「九頭竜、ク・リトル・リトル、クトゥルフ…時代や場所によって様々な呼び方をされてるけど、本当の名前は分からない。ただひとつ確かのは、倒さなきゃ幻想郷が滅びるかも知れないってことだ!」
僕は腰に提げた剣を抜いて構える。十握剣。かつて須佐之男命が八俣大蛇を屠った神剣。これが僕の店に流れ着いていたのは、運命なんだろう。
化物が魔理沙に向けて飛ばしてきた触腕を剣で振り払いながら叫ぶ。
「魔理沙、大丈夫か!?ここは僕に任せて君は逃げろ!」
そうして僕は化物に向かって飛び込んで…
目が覚めた。
何て夢を見るんだ、僕は。
夢の中のあまりに在り来たりで陳腐な展開に、幼い子供が夢想するような英雄像に、顔が熱くなる。
しかし、認めなければならないだろう。これこそが、確かに僕の願望なのだ。
戦う力を持たない僕はいざという時、いつも女の子に、魔理沙に守ってもらうばかりで。
ああ、くそ。悔しいな。
気付けば、拳の上に熱い滴が落ちていた。固く握り締めた拳の中、爪が手のひらに刺さる。今だけは、その痛みが心地好かった。
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