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SS by astra
幽霊客船の時空を越えた旅 村紗
交流☆わはー第11回SSコンテスト【主従】優勝作品。



 夢を見ていた。地下に封じられて以来幾度も繰り返し見たあの日の夢。
 夢の中の私は夢見る少女だった。聖の見せる夢に心酔していた。聖の夢は等しく私の夢であった。

 私には夢があった。いつの日にか、聖の開いた寺の境内で、かつて世界から排除された妖怪とかつて妖怪を排除しようとした人間が、同じ門徒として仏法の修得を目指して切磋琢磨するという夢が。
 私には夢があった。いつの日にか、あらゆる生物が種族によってではなく、人となりそのものによって評価されるような時が繰ると言う夢が。

 聖なら、そんな世界を実現できると信じていた。だからあの日、聖と法界で別れた時も、私の胸は希望に溢れていた。

「残念ながら私の法力は未だ弟に及びません。私たちの夢を叶えるためには、もっと力が必要です。だからかつて弟が修行したというこの法界で、私もしばし修行いたします。村紗、留守の間飛倉をたのみますよ。寺の留守を守ってくれている星の力になってあげて下さい。」

「はい!」

 夢の中の私の声は希望に溢れていた。聖が帰ってきた暁には全ての虐げられし者たちのために自由の鐘をならすことができるのだと。
 夢の中の私は法界で聖を見送り、顕界へ引き返していく。

―いけない!聖を法界に残していってはいけない!

 私は叫ぶ。しかし私の声はいつも、夢の中の私には届かない。
 嗚呼、その先には絶望が口を開けて待ち構えているというのに。
 法界の出口には、人間たちが、聖の素晴らしい考えを理解しようとしない人間たちが待ち伏せているというのに!
 法界を出てしまえば、私は人間に捕えられ、聖は飛倉の法力を使って封印されてしまう。私のせいで、聖は封印されてしまう。幾度も繰り返し見た、否、見ずにいられなかった無念の光景、希望が絶望に変わる瞬間を思い出し、私は震えた。
 嗚呼、その境界を越えては駄目、越えては・・・



 突然の衝撃に村紗は目を覚ました。目を開き、飛び込んできた光の明るさに顔をしかめる。
 長年何の用も為さなかった飛倉の採光窓から、光が差し込んできていた。村紗はその光が何の光なのか、にわかには思い出せなかった。その光を見るのは有に千年振りだったのだから。
 明るさに目が慣れるのを待たず、村紗は窓から外に身を乗り出した。朝の冷たい空気が肌を刺す。眼下に広がる大地では、融け始めた雪の隙間から草木が力強く芽吹いていた。遠くに見える小さな集落からは、新しい朝の到来を告げる鶏の鳴き声が響いてくる。そして頭上には、千年振りの青空と太陽。雲ひとつない青空の下、空気はどこまでも澄んでいた。
 丁度飛倉の真下で勢いよく噴き出している間欠泉を見て、村紗は先程の衝撃の正体を知った。間欠泉に乗って地上へと投げ出されたのだ。
 失ったはずの希望に光が灯る。千年前の夢の続きを見よう。あの絶望を再び見る前に目覚めることができたのだ。千年前とは違う結末が待っているに違いない!
 法界に封じられた聖を救いださねば。星なら封印の解き方を知っているかもしれない。まずは散り散りになった仲間たちを迎えに行こう。聖を救い出して、自由の鐘を鳴らすんだ!
 高く飛び上がっていく聖輦船の舵を握りながら村紗の上げた掛け声が、朝の空気を震わせる。

「ヨーソロー!」



今回の元ネタはキング牧師の有名な演説。

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