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SS by astra
囚われの姫と悪い魔法使い フラン
初めて書いたSS。レミリアとフランのお話。



Flandre Scarlet

 暗い部屋に独り。退屈。
 戯れにメイドが置いていった花瓶を壊す。中に活けてあった花も一緒に散ってしまったけれど、日の光が届かない私の部屋ではすぐに萎れてしまう。同じことだ。
 ベッドから起き上がり、本棚から1冊の本を取り出す。パチュリーからこの本を借りたのはどのくらい前のことだったかしら?パチュリーは外の世界の本って言ってたけど、外の世界ってどこかしら?

 ≪いばらひめ≫
 悪い魔法使いに閉じ込められた人間のお姫様を、人間の王子様が助けに来るお話。

 このお姫様はちょっと私に似てるなぁ、なんて少し思いながら、この本を何度も読んだ。私も館の外に出してもらえないもの。
別に今の暮らしに不満がある訳じゃない。メイドが作ってくれるご飯は美味しいし、毎日入れてくれる紅茶もだいたい美味しい。たまに変なものが混ざってるけど。パチュリーは色んなお話を聞かせてくれる。お姉様は、厳しいことも言うけど、すごく優しい。威厳に満ちていて、美しい。お姉さまは私の自慢だ。それに外に出なくたって友達が遊びに来てくれる。

私は幸せ。本の中のお姫様とは違う。

 でも、外に出たいって気持ちがない訳じゃあ、ない。
 だから、あの雨の日、館の外から私のところまで人間が来たときは、もしかして王子様が私を迎えに来たんじゃないかって思っちゃった。
 すぐにそれは違うってことが分かった。それで私は、そんなことを考えた自分が恥ずかしかったのと、初めて館の外の人間に驚いたのとで、少し興奮しちゃったみたい。つい、周りにあった調度品を壊したり、やって来た人間に弾幕を放ったりしてしまった。
 お姉様が私を外に出してくれないのも、こういうところが原因なのかな、と思う。
 でも、うちにやって来た人間は、星屑を散らしながら駆ける箒にまたがって、綺麗な金髪をたなびかせながら、私の弾幕を全部避けてしまった。そして、私に言ったのだ。

「楽しかったぜ。気が向いたらまた遊びに来てやるぜ!」

 それから、その人間―魔理沙は遊びに来てくれるようになった。一緒にお茶を飲んだり、お話したり、弾幕<あそ>んだり、すごく楽しい。



 だから、私は幸せなの。


Kirisame Marisa

 最初は吸血鬼の妹―フランドールのところに遊びに行くつもりはなかった。パチュリーの図書館から本を借りて、ついでに、めぼしい物はないかと紅魔館の中を物色していただけだった。そこに、珍しく部屋から出歩いていたフランに会った。

「あ!魔理沙!約束通り遊びに来てくれたのね!ねぇねぇ、私のお部屋でお茶しましょ!」

 はっきり言って約束なんて忘れていた。でも、お茶をご馳走してくれるっていうんで付き合うことにしたんだ。咲夜の淹れる紅茶は基本的に美味いからな。

「あぁ。約束したからな!」

 フランとのお茶会は存外に面白いものだった。
 そもそも、紅魔館で歓迎される、という状況が珍しく、心地の良いものだった。美鈴や咲夜は、何故か、私が行くと攻撃してきやがる。客のもてなし方を一から学んでくるべきだな。
 それからレミリアの奴は、妹は気が触れているから人前に出せない、とか言ってたが、フランは普通に話も通じるし、気が触れているようには見えない。まぁ、少し情緒不安定なところはあるが。

 それ以来、私はたびたびフランのところに遊びに行くようになった。どういう訳か、フランに会いに来たと言うと客として歓迎された。美鈴は快く通してくれるし、咲夜はお茶を出してくれる。

 そして今日も、フランとお茶を飲んでいる訳だ。

「・・・ ね!魔理沙、咲夜ったらおかしいでしょ!」

 小さなテーブルを挟んで反対側に座ったフランが楽しそうに話している。薄暗い地下室で魔女と吸血鬼がお茶会。まるでサバトだな。そんなことを思いながら相槌をうつ。

「ああ、全くだ。」

「あぁ、楽しい♪魔理沙も遊びに来てくれるし、私は幸せよ。」

 …まただ。お茶会の度に、フランは同じことを言う。何度も。私は幸せだ、と。自分が幸せだと、自分自身に言い聞かせるかのように。

「…沙!魔理沙ったら!どうしたの?ぼーっとしちゃって。」

「ん?あぁ。何でもない。それよりずっと座ってると腰が痛くなってくるぜ。フラン、ちょっと体動かそうぜ!」

 そう言って私は誤魔化す。

「弾幕ごっこね!」

 嬉しそうにフランが言い、同時に壁際に飾ってあった花瓶が爆ぜる。体を動かせばフランにとってもストレス解消になるだろう。



「いててて…今日は私の負けだな。」

「あー、楽しかった!」

「全く容赦がないぜ。今のお前なら、霊夢にも勝てるかもな。」

「霊夢?あ、博麗の巫女ね!じゃぁ、魔理沙、今度そいつを連れてきてよ!」

「う〜ん。難しいぜ。あいつは面倒臭がりだからなぁ。それより、お前が神社に行ったほうが早いと思うぜ。」

 私がそう言うと、フランは急に顔を曇らせた。

「…それは無理よ。お姉様が許してくれないわ。だから、ね?連れてきてよ。」

 やっぱりそうか。こいつは紅魔館の外に出てみたいんだ。でも、それが出来ないからいつも自分に言い聞かせるんだ。今のままで幸せだって。外に出られなくても幸せだって。
なら―

「断る。」

「なんでよ!」

 ティーカップが割れ、冷めてしまった紅茶が零れる。

「外に出たいんだろう!?」

「!」

「ほら、行くぜ!」

 私はフランの手を取る。フランの手は震えている。

「…でも、でも、やっぱり駄目よ。お姉様が外に出ちゃだめって言ってるのは私のことを考えてのことだもの。」

「たとえ肉親であろうとも、本人の生き方を勝手に決められるもんか!さあ、行くぜ!」

「…」

 フランは無言。でも抵抗はしない。まぁいい。これは承諾と受け取るぜ。
もう外は日が沈んでいる頃だろう。私はフランの手をつかんだまま、もう片方の手で箒を握る。そのままテイクオフ。地下室を飛び出て、目指すは外。自由な空だ。

 さて、外に出るにはあとロビーを抜けるだけ!
 …なんだが、やっぱりそう簡単に出してはもらえないみたいだな。

 館の外に通じる扉の前で、吸血鬼とメイドが待ち構えていた。


Remilia Scarlet

 地下から漏れ伝わってくる妹の魔力に目を覚ます。まだ日は沈んでいない。早すぎる目覚めだが仕方がない。

「咲夜」

 瀟洒な従者が現れ、主を着替えさせる。着替え終わると、私は咲夜に尋ねる。

「魔理沙が来ているのね?」

「はい。現在妹様のお部屋で遊戯中ですわ。そして妹様の魔力に中てられて妖精メイド達全員に混乱が生じ、館の機能の10%が停止しております。」

「たった10%?妖精全員が混乱しているのに?」

「もともとあまり役に立っておりませんから。」

「…まぁいいわ。鏡を。」

 咲夜が部屋の隅にあった全身鏡を持ってくる。私がその鏡に魔力を込めると、フランの部屋の様子が映る。パチェも便利なものを作ってくれたものね。
鏡を通して遊びに興じるフランを見る。

 笑っている。楽しそうに。
 嗤っている。愉しそうに。
 歪な翼を羽ばたかせ。
 歪な剣を振りかざし。

 ただ遊んでいるだけなのに、漏れ出でる魔力は妖精たちを脅えさせる。遊んでいる姿を直に見れば妖精などそれだけで消滅してしまうだろう。弱い妖怪だってただでは済むまい。自分の妹ながら恐ろしくさえある。
 フランと正面から遊べるのは魔理沙みたいなよっぽどの物好きか、霊夢みたいな怖いもの知らずくらいかしら。

「外に出たいんだろう!?」

 鏡の中から聞こえてきた魔理沙の声に思考を中断する。鏡の中では魔理沙がフランの手を取って地下室から飛び出そうとしていた。

 あの野良魔法使いめ!フランを連れ出す気か!フランが外へ出たいと言い出さないよう、客として招いてやっていたのに!勝手な事を!

「咲夜、悪い魔法使いを退治しに行くわよ!」

「はい、お嬢様。」



 咲夜を伴い、ロビーでフランと魔理沙を待つ。そこにフランを連れた魔理沙がやって来た。

「ここは通さないわよ。」

「通さないと言われると通りたくなるぜ。」

 私は魔理沙と睨み合いながらも、フランを視る。

『あらゆる者に恐れられ、恐れられるが故に、自らが傷ついていく』
 昔から変わらないフランの運命。

 フランドールほど、吸血鬼の力を強く受け継いだ吸血鬼はいないだろう。
 それは強大な魔力と超越的な身体能力。即ち、他の種族を平伏させる圧倒的な恐怖。

 フランドールほど、吸血鬼の資質を受け継がなかった吸血鬼はいないだろう。
 それは他の種族に恐怖されることも厭わぬ、ともすれば、我侭とも形容される強い意志力。即ち、他の種族を惹きつける圧倒的なカリスマ。

 そう。フランは吸血鬼として強すぎ、そして優しすぎる。他者の目に触れれば、フランは恐怖され、厭われ、そして傷つく。

 この運命が視えたときからずっと、私はフランを隠してきた。そうやってフランを守ってきたのだ!外になど連れ出させるものか!

「咲夜、下がってなさい。この野良魔法使いには私がお仕置きするわ。」

「フラン、しっかりつかまってろよ!分からず屋の姉は私が退治してやるぜ。」


Kirisame Marisa

「神罰『幼きデーモンロード』!」

 レミリアの体から放たれる蜘蛛の巣状のレーザーが外へ到る通路を塞ぐ。
 …まずいぜ。正直言って、今レミリアと戦う余裕はない。さっきフランと弾幕んだ時にスペルカードは使い果たしちまったからな。うまく隙をみて戦わずに逃げる予定だったんだが…
 さて、どうするか。
 とりあえず、このスペルカードが継続してる間は逃げ回るしかないな。んで、このカードの効果が切れると同時に全速力でレミリアの横を抜ける、これで行こう。

 戦術を決め、私は回避に専念する。

「どうしたの、魔理沙?逃げ回っているだけじゃ、私を退治することなんてできないわよ!」

「ふん。スペルには使い時ってもんがあるんだよ。お前みたいに無闇矢鱈に打ちまくったって私には当たらないぜ!」

 そう言って私はトランプを手の中に忍ばせる。絵柄さえ見せなければスペルカードに見えるはずだ。

「スペルをゆっくりと使わせる暇なんてあげるわけないでしょう?」

 よし!レミリアは私が攻撃するつもりだと思ってくれたみたいだ。後はうまくタイミングを見計らって・・・
 5・4・3・2・1…今!

 一気に加速してレミリアの脇をすり抜け…
 
「どこへ行こうというの?館の中で起こることは全て私の手の内で起こるのと同じこと。当然、貴女とフランの弾幕ごっこもね。貴女にスペルカードがないことも知ってるわ。そんな貴女にできることなんて、逃げるだけ。全部お見通しよ。」

「ぐわっ!」

 突然目の前に蝙蝠の群れが出現、その直後、レミリアに首根っこを捕まれ、床に組み伏せられる。

「遊びは終わり。さぁ、フラン。部屋に戻りなさい。」


Remilia Scarlet

「遊びは終わり。さぁ、フラン。部屋に戻りなさい。外は危ないの。欲しいものがあるんなら言いなさい。何でも用意させるから。ね?」

「はい、お姉様…」

返事をすると、フランは俯いたまま、踵を返し自室の方へ歩き出す。ふぅ、これで解決ね。
そう安心した矢先、魔理沙が叫びだした。

「フラン!外に出たいんだろう!本当は自分の目で外を見たいんだろう。自分の生き方は自分で決めるんだ!
 私は昔はお前と同じだった。自分の生き方を全部親父に決められてきた。窮屈な生活だった。でも、魔法使いになりたくて、家を飛び出した!自分の意思でだ!生活のこととか、色々心配だったけどなんとかなった!
 もし、あの時家を出なかったら私は今頃、うふうふ笑いながらどこの馬の骨とも分からない奴とお見合いでもしてるだろうぜ!
 いつまでも姉の言いなりになってないで、グッ…」

「黙れ、魔理沙!他人の家の事情に口を出すんじゃない!…フラン、早く部屋に戻りなさい!」

 フランが振り返る。俯いていて表情は伺えない。

「どうしたの!早く戻りなさい!」

 フランの口が小さく動く。

「禁忌『クランベリートラップ』」

 フランの弾幕が私を囲むように出現する。

「フラン!私の言うことが聞けないの!?」

「ごめんなさい、お姉様。私、やっぱり、外の世界を見てみたいわ。」

 あぁ、もう。この子は人の気も知らないで…!私は胸中で毒づきながら、自弾でフランの弾幕を相殺し、咲夜に命じる。

「咲夜!手伝いなさい!フランを止めるわよ!」

「おっと、咲夜。お前の相手はこの私だぜ。フラン!お前は分からず屋の姉に自分の思いをぶつけるんだ。邪魔はしないし、させないぜ!」

 くそ、この白黒はどこまで邪魔をすれば気が済むのだろう?魔理沙は昨夜に任せ、私はフランに向き直る。

「初めてね。お姉様と弾幕≪や≫りあうのは」

 そう言ったフランの口元は、かすかに笑っていた。


「お嬢様、大丈夫ですか!?」

 咲夜が駆け寄ってくる。咲夜に抱え起こされながら、館の外に出ていくフランを視る。

「…!」

 あの忌々しい運命が視えなくなっている…!
 
 ああ、そうか。
 今日フランは初めて、私の言葉に反抗して、我侭を言ったんだわ。
 私に逆らえるくらい強い意志を持っていれば、他の人妖からの恐怖を跳ね除けることくらい簡単よね。
 
 フランは一人前の吸血鬼として、私の保護を必要としなくなってしまったのね。

 
 …少し、寂しいな。

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あきゅろす。
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