breaktime(ライリシェ)
テーブルの下、テーブルクロスで閉ざされた空間は、幼い頃のあたしの秘密の隠れ家だった。
晴れた昼間、白いテーブルクロスを透けて通る眩しい日の光に目を細めながら、ナプキンに包んだおやつのクッキーを取り出して少しずつかじるのが好きだった。
ウチのテーブルは大きい部類に入るため、寝転がってもはみ出ることはない。
これは結構重要なポイントで、毛布を被ってお昼寝をすることもできた。
まるで猫の子みたいに、柔らかで暖かい陽射しを受けて丸くなって眠るのが好きだった。
そうしていると、夕方の日が落ちて涼しくなりかけた頃に、ライがひょっこりテーブルクロスをめくって、
『起きろよ、風邪引くぞ』
仕方ない奴、って言いたげな顔で笑いながら、あたしを起こしにくるのだ。
それは、日中の暖かさを凌ぐほどの温度を持った、温かさだった。
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懐かしさに背中を押されて、何となく、秘密の隠れ家に潜ってみた。
広さは変わらないはずなのに──当たり前と言えば当たり前だけど──頭がつっかえそうになるのを低くしながら中に入る。
そこはやっぱり昔と変わらない陽射しに溢れていて、以前の様にポケットからクッキーの包みを取り出せば、少し薄ぼけた記憶が色を取り戻して蘇る。
以前のように寝返りは打てないけれど、十分に寝転がれるスペースがあることを確認して、床に転がる。
少し窮屈だけど、ほのかに暖かい床に寝転がってしまえば、記憶はさらにリアルな触覚として蘇った。
──うん、いい感じじゃない。
毛布に思うように潜れなくて苦労するけど。
そんな風に、少しばかりテーブルの下で毛布を一生懸命広げようと頑張りすぎていたのかも知れない。
「起きろよ、風邪引くぞ」
突然降ってきた声にあたしの心拍数は馬車馬みたいに暴れまわり、次の瞬間半分までめくられたテーブルクロスの隙間からのぞいたその顔に驚いて、のどから潰れた蛙の様な声が出た。
そこには──ほんの少しだけ昔の姿とダブって見えたけれど、ライがいた。
「……懐かしいからちょっとめくってみただけだけど、」
まさか本当にいるとはなと、クロスを指で摘んだままライは苦笑した。
──不意打ちにも程がある。
お陰であたしの秘密の隠れ家での記憶は、温度まではっきりと思い出せてしまった。
しかも何だか昔よりも熱く感じられて、顔がほてる感じがするのだから始末が悪い──。
「どうした?」
「別に、何でもないわよ」
ふーん、と納得したような訳が分からないような、間延びした返事がした。
「ポムニットさんが探してたぞ? 相変わらずここに隠れてる可能性は頭にないみたいだったけどな」
(それはそうじゃなくてさ、)
──ここに居る時は、ライに見つけてほしいんだろうって、あの子の気の利かせ方…………て、何。
あたしの行動って、筒抜け?
「ま、ここはさ、何か秘密基地みたいでワクワクするよな」
「……秘密基地、ね。まあ良いけど?
ライもちょっと休憩していく?」
クッキーもあるわよ。
そう笑うと、ライもニッと笑った。
「今度は何か持って来るか」
「そうね、じゃあ……紅茶かな」
お茶会ってのも、悪くないでしょ?
「お砂糖は多めにね!」
今回ばかりはポムニットに感謝、なのかも知れない。
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何だか尻切れトンボ…;
ここまで読んでくれて、ありがとうございました!
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