メルト(ライリシェ) 「これ、あげるわ」 はい、と目の前に差し出された手に、訳が分からずこっちも受けるように手を差し出すと、手の中に軽いころんとした感触。 「あめ玉。もらったから」 「…ありがとう」 「どういたしまして」 にっこり笑うリシェルに少し苦笑して、転がしていたあめを手の中に握りこむ。 黄色い包み紙に包まれた小さなあめは、丁寧に広げてみるとかすかにレモンの香りがした。 「レモンティーの味だって」 「それは良いけど、何かちょっと溶けてるぞ」 「だってポケットに入れたままにしてたし」 いつもらったんだよ、という質問は胸の中にしまって、琥珀色をしたそれを口に放り込んだ。 ほんの少しの紅茶の香りと、レモンの香料のきつめの香りと、それを上回る甘味料の甘さに思わず眉をひそめる。 ふふ、と楽しそうな笑い声が耳をかすめて顔を上げると、リシェルが心底楽しそうな顔で笑っていた。 「それ、ホントに甘いからあげたの」 「お前食べたのか?」 「うん。水無しではちょっと食べるの辛いでしょ?」 「……まあな」 「最後の方はもっと甘くなるから。紅茶の原型なんか留めないくらいに」 「…………頼むから、口に入れる前にそれを言ってくれよ」 「それを言ったら、あんた食べないでしょ?」 それはそうだろう。 リシェルにとったらそれはつまらない、と言いたいんだろうけどな。 …いい加減、香料と甘味料のドスの効いた不協和音に胸焼けし出した俺は、のろのろと立ち上がる。 「どこ行くの?」 「キッチン。水が無いと辛いって言ったのはお前だろ」 「言ったわね」 ああ、間違いなく。 そう合いの手を入れながら、キッチンで汲み置きの水をいつもの動作より倍速でコップに注ぎ、一気に飲み干した。 「……恐ろしいな、まだ口の中カラカラだ…」 「よく分かるわ。口直しにクッキーでも食べる?」 「何でクッキーなんだよ、もっと水分無くなるだろ?」 背中越しに会話をしていたので、どうして突然クッキーと言い出したんだと振り返ると、 「ね、口直しに紅茶でも淹れない?」 なんて、いたずらが成功したような――それでも少し照れたような――表情をしたリシェルがそこにいた。 それでもって手の中には美味しいと評判の、帝都の有名洋菓子店の包装紙。 「…お前な、別に紅茶くらい、言えばいつだって淹れてやるのに」 「いいじゃないの。あめをどうにかしたかったのは本当だし」 「――まあ、そのクッキーに免じて許してやるか。で?何にするんだ?」 「んー……レモンティー以外なら、何でも?」 「……奇遇だな」 戸棚から紅茶葉と、砂糖。冷蔵庫からミルクを取り出し、目の端に止まってしまったレモンを庫内の奥のほうに追いやって、苦笑する。 ゆっくり紅茶が蒸らされるのを待ちながら、リシェルと話をするのも悪くない。 火にかけたお湯が沸くまで、もう少しだった。 +++++++++ 30000ヒットを踏んでくださった立野さまに捧げます。 何て遅い!遅筆さにびっくりします。 びっくりします。 ライリシェはひたすらじゃれてればいいよ! 立野さま、本当にありがとうございました! [*前へ] |