小夜嵐 2ページ/3ページ □■■□□ 店の中は閑散としていた。 ランチタイムの忙殺されそうな忙しさも、過ぎてしまえば嘘のように宿は静かになる。 静まりかえる…という表現を避けたいのは、店主としての最後の抵抗なのだろうか。 「よう、坊主」 ぼんやり焦点の合わない目で食堂を見つめていたオレは、扉がきしむ音で我に返る。 「…何だ、駐在さんか」 「何だとはご挨拶だな。心配して来てるのに」 人の良さそうなおじさん──それを本人に言ったら『まだおじさんと呼ばれるような年齢じゃない!』と怒られたが──は、よく忘れじの面影亭の付近をパトロールしてくれている。 昼飯時を少し外してやって来るこの人は、店の売り上げにも貢献してくれる有難い常連客でもあった。 「悪い。コーヒー飲む?」 「いや、ちょっと注意喚起に顔出しただけだ。すぐに帰るよ」 おじさん──もとい、駐在さんは、ポケットからくしゃくしゃの紙切れを出して、オレに差し出す。 少し温まっているその紙を広げて、記されている文字を読み上げた。 「なになに……“不審人物の目撃情報が相次いでいます。近隣の住民の皆様は、不審な人を見掛けたら、是非ご一報下さい”?」 「そう言うこった」 [前へ][次へ] |