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弟俺
B

部活で会いたくないとか、そんな乙女な事言うつもりないけど。

まぁ多少気まずくは、ある。

何にせよ、キャプテンである川原が部活を休むという事はしないのだが。

結構お気楽な川原でさえそう思うのだから、真面目の上に生まで付きそうな高岡は、相当に気まずく、あたふたしているだろうと思ったのだが。

…何故、こうもイキイキとした顔で自分の前に立っているのだろうと、川原は顔を引きつらせた。

川原が口を開く前に、高岡が瞳をキラキラとさせてバカな事を言い出した。

「川原さん!川原さんは何も気にする事なんかないです!俺が勝手に好きになっただけですから!」
「――は?」
「昨日の事、投間たちに相談したんです。そしたら、俺、フラれたんじゃないって分かって!」

拳を握って力説する高岡を殴りたいと思ったのは初めてだ。
(――意外にストレス溜まってんのかな、俺)

受験に部活に失恋――。
実は気が付いていないだけで、川原の心は相当追い込まれているのかもしれない。

『フラれたんじゃ、ない。』

(いやいや、こっちは思いっきりお断りしたつもりですけど?)

川原はどうしたものかと頭を掻いた。
こうなった原因は何だ。

「おーい、投間ー」

…まぁ、ひとつしか心当たりはない訳だが。

高岡に一旦待ったをかけて、川原は投間(兄)を呼び付けた。

「何スか?」
「お前さ、高岡になんて言って、アイツはフラれたんじゃないって断言したわけ?」

断言したかどうかは川原の推測でしかないが、あながち間違ってもいない。

「え?えーと、なんか高岡に聞いたら、『可哀想だな、お前は』って言われたらしくて。それで高岡がフラれたーってうるさいから、



『バッカだなーお前。そりゃアレだよ、『可哀想だな、私に魅了されちゃってお前は』って意味だよ』





って」
「………ポジティブだな、お前は」

一矢の言葉に、川原はがっくりと項垂れた。
他人事だから言える事だ。自分も昔、フラれたフラれたとうるさい友人に似たような事を言った覚えがある。
ゴメンネ当時のオンナノコ。

「……因果応報」
「は?インがおーぼー?審判に対してスか?」

野球のライン上のインアウトの判断が審判の横暴だと考えた野球バカな一矢は置いといて(きっと一矢にも同じ思いを知る日が来るだろう)、川原はどうしたものかと思案した。

(…どうしたもこうしたも…仕切り直し?)

つーか先手必勝?

どうやら高岡は賢明にも告白した相手の事を一矢たちに話していないようだし、まぁセーフって事で。

川原は考えをまとめると、一応周囲に人がいない場所まで移動してから、高岡にかけた待ったを解いてさっさと話題を切り上げる事にした。

「えーと。まず高岡。悪いけど、俺がお前に言った事は勘違いでもなんでもなくてお断りの言葉だ。俺はお前とは付き合うつもりはない。理由は2つ。まずお前が野球部の後輩だからって事。2つめは俺には好きな奴がいるって事」

まぁ失恋はしたわけですが。
それは伏せて、川原は一気に語った。
最後まで口を挟まなかった高岡を、川原は見詰める。

泣く事は流石にないと思うが、部活に支障が出るのは困るなと思いながら。

所詮、川原にとって高岡はどこまでいっても部活の後輩なのだ。

特別な誰か、ではない。
特別に優しくする理由もない。

顔を俯かせてしまった高岡を黙って見守りながら、今日は監督がいなくて良かった、などと考えた。
とりあえず叱られずに済む。

「……は、……」
「え?」

思考をそんな所に飛ばしていた川原は、一瞬高岡が呟いた言葉を聞き逃した。
思わず聞き返したのが、川原の運の尽きであった。

「じゃあ俺は、川原さんを好きでいていいんですね」
「―――は?」

顔を上げた高岡のきりりと整った表情を見て、反対に川原は顔を歪めた。
勿論、他の男子と違って高岡の顔の良さに自分と比較して落ち込んだからでも、妬んだからでもない。

ただ単に、高岡が発した言葉の意味が理解出来なかったからだ。

「川原さん、今言ったじゃないですか。俺と付き合えない理由を。男同士だから、ダメなわけじゃないんですよね?」

ぐ、と川原は言葉に詰まった。
それは、川原が日向を好きだからうっかり言い忘れた事であって、男同士でも構わないという訳ではない。
しかしそれを言ってしまえば、高岡に川原が日向を好きな事がバレてしまう。
それだけは回避しなければならない事だった。

自分の不始末で、日向に迷惑をかけたくはないのだ。

「もう川原さんも3年で、この夏が終われば引退ですし、そうしたら、俺は川原さんの部活の後輩じゃなくなりますよね」
「…まぁ、名義上は。でも俺は引退しても、お前らの事は可愛い後輩としか――」
「それに、川原さん、今別に誰とも付き合ってないでしょう?」
「は?いや、まぁ、そうだけど」

グサグサくる高岡の言葉に傷付きながら、川原は対応していく。
なんとなく、嫌な予感を引き連れながら。



「だったら。――別に、好きな人がいるだけの人を想っちゃいけないなんて決まり、ないですよね?」












20100211
真面目な顔に殺意を覚えたのは初めてだった。

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あきゅろす。
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