弟俺
他校と日向さんを会わせよう・その3
【小野原編】
(若干小日要素有り)
ほんっと何なんださっきから。
暑い陽射しにやられて、金がないとか言ってらんないくらい身体が水分を欲していて。
本能に忠実に従ってわざわざ自販機に炭酸を買いに来れば、そこには既に先客がいて。
なんかブツブツ言いながらかれこれ5分は自販機の前に居座ってやがる。
近くにコンビニはないし、自販機もここが一番安い。
いくら金を惜しまないと思っても、少しでも安く買いたいと思うのが人間だろう。
「どうしよう…投間弟に頼まれたジュースが売り切れてる…代わりに何か…いやでも好みが分かんないしな…間違ったの買ってくと後が怖いし…」
「あのぉー」
ずっと同じ事をぐるぐると思考してるようだから、ついに声をかけてしまった。
恐らく投間弟ってのは憎き枚鷹の投間世史の事だろうから関わり合いになりたくなかったけど。
これ以上待たされんのも我慢なんねぇし。
「まだ時間掛かりそうなら先いースか」
「え、わ!すみません気付かなくて…っどうぞどうぞ!」
暑さも相まって少し睨みながら言うと、相手は恐縮しきって自販機を譲った。
あーったくもう。
こんな事なら早く声かけてれば良かった。
そう思いながら財布の口を開ける。
「………あ"」
やべぇ。万札しかねぇ。ちらりと投入口を見れば、どうやら札は千円しか無理らしい。
……マジか。
この暑いなか待たされた挙句結局何も買えねぇのか。ツイてねぇ。
「……あの」
「あ?…あぁ、すんません、やっぱいースわ。どうぞ」
さっきの奴が後ろにいて、催促かと思って自販機を空ければ、否との返事。…は?
「さっきはお待たせしちゃったみたいだし、1本なら奢りますよ」
「へ…いや、いーッスよ。そんなん」
「ううん、折角だし…えっと、美景の…小野原くんですよね?俺枚鷹の日向って言います」
言いながら、勝手に自販機に金を入れられる。
なんか変に強引な奴だな…。
…て、日向?
「確か試合の前半、ピッチャーで出てた…」
「あ、そうです、それ、」
「……あ、」
枚鷹の日向って言えば、俺の打った球を素手で止めた奴…どんなバカかと思ってたけど、見る限りそんな事しそうに見えない。
「あん時はどうも…」
「あっいや、あれは俺が勝手にした事だし」
これでいい?なんて話の流れでなんとなく頷いてしまって、見れば既にジュースが自販機から音を立てて出てきた所だった。
「はいどうぞ」
「…どうも」
なんでコイツに奢られてんだ?俺。
まぁ貰えるもんは貰っとくけどよ。
そう思いながらペコリと頭を下げる。
それに終始ニコニコしてる日向にもう一度、今度は別れの挨拶を込めて頭を下げた。
踵を返して歩き始めて数歩で、後ろからチャリチャリーンなんて音が響いた。
「……」
「わ、わ…!」
嫌な予感がしながら振り返れば、財布から小銭を落として慌てる日向の姿。
一体いくら入れてたんだってくらいの小銭が財布から溢れてて、奢ってもらったし拾うのを手伝うためにもう一度踵を返した。
「何やってんスか」
「え、小野原くんいいよ!自分で拾うから!」
「別に盗まないっスよ」
「ちちちち違うよ!そうじゃなくて悪いからっ…」
慌てて弁明する日向。冗談も通じねーのかコイツ…。
「っ、」
ふと顔を上げれば、思ったより近くにあった日向の顔。
下を向いてるから目は合わねぇけど…睫毛長ぇな。
鼻筋も通ってるし、唇なんかふにふにしてて超やわらか…そう…
ポタっと日向の首筋に汗が流れるのを目で追ってから、ハタと我に返った。
「………っ!?」
今自分の考えた事が信じられなくて、ザッと前置きなく立ち上がった。
それに日向が驚いて顔を上げて俺を見る…うわぁ上目遣いがっ!やめろぉぉっ!
「用事思い出したんで失礼シマス…っ!」
「えっ?あっ、小銭拾うの手伝ってくれてありがとう、」
バッと拾った分の小銭を押し付けて、俺は家とは真逆に走り出した。
日向が何か言ってたけど、段々と離れて小さくなっていく声に、最後まで聞き取る事は出来なかった。
なんだなんだこの動悸息切れはぁっ!
走り出す前から起こった自分の異変に、俺は目が回る思いだった。
だって俺、なんか…アイツの…日向の唇見てたら、触れたいだとかキスしてみたいだとか…ってなんだそれ!相手は男だぞ!?
ぐぉぉぉっと頭を抱えると、ヒヤリとした感触。自分の右手を見やると、そこにはさっき奢って貰った炭酸。
思いっきり走って振ったから、開けるのに恐怖する炭酸…。
俺はこの時、確かに日向への想いが弾けた音を聞いた。
20110112
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