弟俺 他校と日向さんを会わせよう・その2 【笹崎編】 やばい、と思った時にはもう遅かった。 全力疾走で駆け抜けてたから、当然突然止まることは出来なくて、曲がり角の向こうからやって来た人と正面衝突してしまった。 「いって〜!」 「たた…て、すみません!どっか、ケガ…」 お互い勢いよくぶつかって勢いよく吹っ飛んで、倒れ込んで痛みを感じてたら、かけられた言葉。 でもなんか尻すぼみになってったから不思議に思って顔をあげた。 ら、ん?どっかで見た顔? 思い出せねーけど。 俺がキョトンと相手を見てたら、相手は俺の肘の辺りに視線をやって目を見開いた。 「っ血が…!」 「へっうわマジだ!気付くと急に痛くなってきた〜!」 擦りむいただけだけど、ジンジンしてきた右肘に涙が出てくる。 うぅ。いてぇ。 「あっ俺バンソーコー持ってる!と、その前に消毒か!」 「へ?」 「え〜と、そこの公園でとりあえず傷口洗おうよ!さ、笹崎?くん」 いっつも、このくらいの傷ならみんな(親とか先輩とか)舐めときゃ治るって言うから、この反応にビックリする。 え?ていうかなんで俺の名前知ってんの? 俺ってばマジ有名!? 若干ニヤニヤしてたら、ぶつかった相手に手を引かれて、近くの公園まで連れてかれた。 水道を見つけて蛇口に手をかけたところで、相手がにっこにっこしながら言ってきた。 「水かけるよ〜。ちょっとピリッとするかもしれないけど我慢してくださいね」 「いっ…!」 「がま〜ん」 擦りむいただけだっていっても、やっぱりそれなりに痛みはあるわけで。 特に俺は痛がりだと自負してるわけで。 涙目になりながら逃げようと及び腰になったのを、ピシャリと注意されてしまった。 うぅ。そりゃ前方不注意な俺が全体的に悪かったけどさぁ。 ケガしたのだって自業自得だけどさぁ。 もう少し優しくしてくれたって…! 「はい、バンソーコー貼るよ」 「うぅ…痛い…」 ペタリ、肌色のそれが貼られる。 貼ったばかりの妙な違和感に肘を動かしてたら、相手はなんか自分の鞄を探ってた。 て、あ。鞄に枚鷹の文字。 枚鷹の人か。 なんてボンヤリ思ってたら、目の前になんか突き出された。 「はい、よく我慢しました」 「……なんだこれは」 「……飴だけど。あ、オレンジよりコーラ味のほうがよかった?」 「そりゃコーラのほうが…って違う!なんのつもりだって聞いてんの!」 「え?痛いの我慢したご褒美だけど」 言いながら、棒の付いた飴をオレンジからコーラ味に持ちかえて、また差し出される。 …まぁ、ただで貰えるんなら貰っといてやるけど? 「でも本当、相手が俺だったから良かったけど、小さい子だったら大変だからね。全力疾走もほどほどにね」 「わ、わかってるっつの!」 先輩たちに散々言われてることだ。一向に改善できてはいないけど。 つーか。 「お前、誰だよ!」 「…えっ、あ、…わかんないか…。一応試合とかしたんだけどな…」 「枚鷹の奴だろ?野球部なのか?」 「うん…。一応、ピッチャーやらせてもらってます。日向です」 「えっピッチャー!?枚鷹のピッチャーって投間だけじゃねーの!?」 「……」 あ、うわ、うそうそ! 何その悲しそうな顔! 俺が悪いこと言ったみたいじゃん! 「ま、まぁアンタ良い奴だな!消毒してくれたし!バンソーコーくれたし!飴くれたし!な!」 慌ててフォローを入れれば、困ったように笑われてしまった。 なんつーの?これが苦笑いかって感じ。 「…あーー!もう!わかったよ!今のは俺が悪かった!言い過ぎた!ごめんなさい!」 勢いつけて謝れば、日向…はポカンとした後、プッと吹き出した。 えっ何!?俺なんか変なこと言った!? 「笹崎くんは面白いなぁ」 はは、て笑う、… て、アンタ、 「ちゃんと笑えばいいのに!」 「え?」 「…ん?」 俺は何を言ってんだ? …いや、ただ、この人ちゃんと笑えば、意外と… …なんだろう。次の言葉が出てこねぇけど。 うーん、なんて考え始めたら、日向が言い辛そうに喋りかけてきた。 「ところで笹崎くんは何か急いでたんじゃ…」 「ん?…あっ!あーー!!」 そう言えば待ち合わせに遅刻しそうなんだった! やっべぇ!まだ間に合うかな!? 「俺行かなきゃ!じゃあ、ぶつかってごめん!飴ありがとー!!」 急いで走り出しながら言った言葉に、日向は手を振って応えてくれて。 あーあ、もうちょっと話してたかったかなー。 先輩に聞けば、なんか教えてくれるかな? 確か枚鷹のデータとかあったし。 うん、待ち合わせに行って、怒られてからでも聞いてみよう! コーラ味の飴のお返しもしなくちゃいけないしなー! 20100805 [←][→] |