弟俺
D
「…なんでだ…」
投間世史がそう呟いてしまうのも仕方ない、午後の一時。
というか、放課後部活の時間。
またも兄の一矢に携帯電話を奪われた世史は、そのまま部活動と相成ったのだが。
日向が。
パタリともチラリとも、こちらを見ない。
昨日までのソワソワはどうした?
と聞きたくなるくらい、怯えて避けるでもなく、所謂フツー。
(…て、おかしくねぇか?)
トントンと、思案する時の癖で顎を叩きながら、理由を考えて、はたりと思い浮かぶ一つの可能性。
(…川原?)
勿論、じっと見ていた訳ではないし、今は日向と別メニューに励んでいるのだけど。
なんとなく。
以前からなんとなく感じていた疑念。
どうにも、日向の事が好きなタヌキにしか見えないのだが。
「…………」
なんか入れ知恵されたか、ほだされたか。
それは、はっきり正直に言って、まずい。
出会ってからの期間も違えば、信頼度も違うし、学生なんて、年齢が違えば会う時間なんて殆どない。
その状態で川原の攻めを日向が受ければ、世史は圧倒的不利な立場になる。
(クソッ)
世史は苛立ち紛れに、近くにあったポールを蹴り付けた。
傍にいた野球部の1年が肩を震わせて離れたが、構うものか。
せめて同じ年齢であったなら。
そうでないなら、歳上でも良かった。
今、3年がどういう時期なのか、1年の世史には検討も付かない。
以前も、進路指導で部活に来ない日があったし。
自分が歳上なら、いつでもスケジュールを把握して動けるのに。
…やはり、歳下だから嫌なのだろうか。
歳下の、しかも自分よりでかくて態度も悪くて目付きも悪い、しかも男に攻められるのは、屈辱だろう。
同じ男でも、部活のキャプテンまで努めて頼りになる奴なら、ほだされるかもしれない。
「……」
情けねぇなぁ。
たった1人の奴のために、ソイツの一挙一動に一喜一憂する自分が、情けなくて笑いたくなる。
結局、今まで自分が考えていた事は、ただの仮説でしかないのだ。
…だから、違うだろう?
そんな事ぐだぐだ考えてんなら、行動しろっつー話だ。
不利だってんなら、有利になるまで何かをすればいい。
特に、あのいけすかねぇタヌキ野郎にだけは、日向は渡したくない。
そういうわけで、世史はとりあえずそのタヌキ野郎――川原を、自慢の眼光で睨み付けてやった。
20091223
[←][→]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!