[携帯モード] [URL送信]
身長差





10センチ

あれは確か、3年前の彼とあたしの身長差。
勿論あたしの方が高くって、彼の隣で小さいとよくからかって遊んでいた。


20センチ

これは確か、今の彼とあたしの身長差。
勿論貴方の方が大きくて、彼はあたしの隣で可愛いとからう。



「なんだ、こんなのも取れないのかよ」



彼はそう言って、棚の上から資料の入った段ボールを軽々と手にした。
つい今まであたしが取ろうと苦戦して取れなかった段ボールをだ。



「煩いなぁ…脚立」

「ひっでぇ!」



横目で彼を睨みながら段ボールを奪いその場を去ろうとした。
けれどそれは予想以上に重み、ぐらりと視界が歪む。瞬時に次に襲うであろう痛みにあたしは目を瞑った。

しかし何時までたっても痛みは無く、それどころか物音すらしない。



「…あんま無理すんなよ」



恐る恐る目を開ければ段ボールは彼の右手、あたしは彼の左手に支えられていて。
ああやっぱり彼も男なんだと、当たり前な事を思い知らされた。

それなのに、当たり前な事の筈なのにどうしてか胸の辺りに押し潰される様な感覚があって。
何とも言えない息苦しさに眩暈と戸惑いが一気に押し寄せる。



「っ!知らないっ!」

「は?」



こんなの知らない、こんなの分かりたくも無い。



「こんなの嫌っ‥‥離して」

「そんな事言われたらな…」



含みを込めた声に俯いた頭を上げると彼は一瞬驚いた表情を浮かべた。
逆にあたしの方が驚いて首を傾げるも、既に彼は何時もの笑顔に変わっていた。



「186」

「‥‥はい?」

「俺の身長」



突拍子もない事を言われて、あたしはさらに首を傾げる。
変わらず彼は笑顔のまま。なんだかそれが憎らしい。



「お前は?」

「‥‥‥マイナス20」

「女にしちゃデカいな」

「煩いなぁ‥‥‥」



確かに回りの子に比べたら少し大きいかもしれないけど、彼の横にいると物凄く自分が小さく感じる。
それに、デカいなとか言いつつあたしの頭をくしゃくしゃと撫でる彼の仕草でより自分が小さく感じるのだ。



「デカくなって良かった」



いつの間にかあたしの視界は彼の胸で埋まっていた。
引き寄せた彼があたしの身体全体を抱締めて、必然的に顔が彼の胸に押し付けられる。


(息が出来ない…)


意外に思う事は冷静で、それはまるで張り裂けそうな心臓に言い聞かせてる様だ。


ドクンドクンと、脈を打つのが彼の腕の中で木霊する。これはあたしだけのものじゃない、これは彼のもの。

もっと聞きたくて、もっと確かめたくて。あたしは彼の背中に腕を回して、胸に耳を押し当てた。



「なんだよ、積極的だな」

「‥‥‥今更でしょ」



少し耳を赤らめた彼の顔を見上げて、あたしはくすりと笑った。


身長差が変わっても心配する程変わってないのかもしれない。
昔より少し逞しくなっただけなのかもしれない。



「もう身長伸びないでよ」

「なんで」



言えない、口が裂けても言えない。格好良くなったなんて口が裂けても言うもんか。
あたしの知らない彼になった気がしたなんて誰が言うもんか。

ただちょっと、焼餅を焼いたなんて恥ずかしいじゃないか。














あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!