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近所迷惑




不快、そう言ってしまえば彼女の奏でる旋律もただの雑音。



「すきだー!」

「‥‥‥」

「すきすき!だいすき!」

「‥‥‥」

「だいすきが身体中から溢れて窒息死しそう!」

「‥‥‥」

「思いに潰れて圧迫死かも!」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥」


‥‥‥

‥‥‥止んだ。

彼女にしてみたら痛い程の沈黙。俺にしてみたら懐かしい沈黙。



アパートの薄い壁を隔て、表情も窺う事の出来ない彼女は只管叫んでいた。
此所のところ毎日の事で、当初は五月蠅いなど近所迷惑など俺も壁に向かって叫んでいたが‥‥‥

二、三日俺は沈黙を守った。



「‥‥‥」



長い沈黙が続く。
それでも壁の向こうからは彼女の気配がちゃんと在って。



「‥‥‥オイ」



気になってしまうじゃないか。

何時もならまた明日ね、って必ず言うのに。
急な沈黙、こんなに不安になるだなんて思いも寄らない。



「‥‥‥」

「…返事ぐらいしろよ」

「‥‥‥」



何も返っては来ない。
不安と苛立ちが募る。



「‥‥‥っか」

「は?」

「馬鹿っ!大馬鹿!!」

「はぁ?!」



何時も以上に大きく張り詰めた彼女の声。
予想だにしない言葉。

クエスチョンマークが頭の中一杯に浮かぶ。



「返事してないのはどっちなんだよっ!馬鹿ぁー!!」

「‥‥‥っ!」



‥‥‥ホントの事で、何も言う事が見つからなかった。

俺はどれだけ彼女に、不安を与えていたのだろうか。
ずっとずっと独りで思いを叫んで、どんなに哀れんだ?



ゆっくり立ち上がって、俺は玄関に目を向けた。
なんで今まで、わざわざこんな薄い壁を隔てていたんだろう。

彼女の家まで十歩もない。



どんな顔してる?
どんな顔して、何を思ってる?

もう声を張り詰める事がないように。壊していくよ、薄い隔て













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