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もっとください





素敵な思い出を重ねるだけじゃ、欲張りなあたしは生きていけそうもないようです。
早く貴方をください。


「俺はあげられないな」


彼は咽喉の奥を鳴らして笑った。俺は俺のものだからと皮肉にも彼は言う。
それじゃあいけないの、そんな抗議の声が素直に出てくれれば少しは進歩するのに。(あたしときたら素直に彼の言葉を飲み込んでいるのだから困ったものだ)


「…ならさ、交換でもする?」

「こう…かん?」


復唱するあたしの言葉を彼は企みを浮かべた楽しそうな笑顔でまた復唱した。


「俺とあんたを、交換」

「‥‥‥」


満足気な彼を余所にあたしは開いた口が塞がらなかった。悪い意味ではない、呆気にとられたのだ。
今まで成そうと頑張ってきた事がいともあっさり叶ってしまうのだから。


「何も言わないなら了承したという事かな?」


こんな事があっていいのでしょうか。有無言わせないのは彼の笑顔のせいだと思うのに。(断るつもりは更々ないけれど)


「へ‥‥‥」


間抜けな声が口から零れた時には、既にあたしと彼の交換が終わった後らしい。
この時漸く彼の交換の意味に気付いたあたしはハメられたのだろうか…きっとそうなのだろう。

彼の手があたしの肩に掛かった瞬間、あたしの視界には白い天井と彼の笑顔だけになっていた。


「好きにしていいよ?俺はあんたのもの」


あんたは俺のもの。そう付け足した彼の笑顔が嫌味な程嬉しそうだったのをあたしは一生忘れないだろう。
素敵な思い出の中にまたひとつ思い出が増えてしまった。

あたしを見下ろす彼の前髪が鼻を掠め、思わず目を瞑ったのを彼が見逃す筈もなく。
唇に啄むような軽く触れるだけの接吻を残して直ぐに彼は離れた。


「あ…」

「ん?」


それだけなのかと、思わず出た短い欲求の声にあたしはまた彼にハメられたのだ。
あたしの心を見透かした様に笑う彼の顔が段々憎たらしく見えてきた。

一瞬だったのに唇に触れた柔らかな温もりがしっかりと残っている。
期待していた馬鹿みたいなあたしの心と、刹那の快楽がこれ以上に無く彼を求める。(それこそ彼の思う壺なのに)


「なぁに?」


精一杯彼の眼を見つめても彼はあからさまに分からないふり。


「言わないと分からないよ」

「‥‥‥ください」


まんまとハマった彼の穴はあたしが丁度すっぽりおさまる心地の良い場所だった。
噛み付くように触れた唇にこたえるよう、あたしは彼の首に腕を回して引き寄せる。


「…もっと」

「欲張り」


言葉とは裏腹に彼も満更でもないらしい。あたしの頬を両手で包み込み、視界一杯に彼が埋まればゆっくりと再度唇が落ちる。
このまま彼に吸い込まれてしまう様な感覚に陥れば、もう他の事などどうでもよくなってしまうのだ。

彼に陶酔する度にあたしは何度も何度も求めた。それに応えるが如くより濃くなる彼の接吻にあたしはまた酔っていく。
そしてまた求めるのだ。こんなにも近くにあるのに。

貴方を、
もっとください。













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