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欲望





世界が彼女で埋まればそれはとても素敵なのだろうと自分勝手な事をふと思う。
世界が彼女で埋まれば自分にとって彼女は神様の様な存在になるのかもしれない。

そんな事を呟いた俺の横で、彼女は不快そうに眉を顰めて『気持ち悪い』と悪態をつく。
第一にあたしは貴方を世界で生かせる程の力は無いと彼女は言い切った。(彼女の言う世界と俺の言う世界がこの時点で食い違っているのに気付いたが、訂正するのもあれなのでそのまま話を続ける事にした)


「障害があるから人間は求めるのよ、このままでいいじゃない」


そう言った彼女の横顔がやけに冷めていた。話ながら目を落とす雑誌のページは一向に次に進まないのに俺は焦れったさを覚える。


「あたしの事だけ考えて生きていける?無理な話でしょう」


冷たい言葉は俺を笑ったものなのか、悟った彼女自身への自嘲か。小さなテーブルを挟んだ二人の距離を縮めようとすればまた開くような。
雑誌のページは相変わらず同じだ。


「無謀な事言わな、っ…」


それ以上彼女を彼女で傷付けないで?温もりで塞いだ唇が凍えていたのが分かった。
テーブルに身を乗り出して片手で自身の体重を支え、もう片方で彼女の頭を引き寄せた。
不意打ちの口止めに慌ただしく彼女は酸素を求める。


「っは…ぁ‥‥‥」


軽く音を立てて名残惜しく離れた唇をわざとらしく舐めながら、俺はまた彼女とテーブルを挟んで座った。
息を整えながら俺を睨む彼女の頬がほんのりと桃色に染まる。


「‥‥‥馬鹿」

「素直に受け止めれば」


横目で彼女を伺えば恥ずかしそうに自分の唇を指先で触れていた。いつもは見せない彼女の繊細な仕草に悪戯心に火がつく。

好きだよ、そう言えば彼女はそれっきり黙ってしまった。

ああなんて愛しいのだろう。
彼女の世界が俺で埋まってしまえばいい。俺の世界が彼女で埋め尽くされた様に。












あきゅろす。
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