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バス停が見えたら





いい加減、離してもいい頃なのかもしれない。

頬も鼻も赤く凍て付く風が吹く季節になったと言うのに、相変わらず繋がったままの手はじめりと汗ばんでいるのが分かる。
隣にピタリと付いて歩く頭一つ分低い彼女をチラリと見れば、彼女もまた風を凌ぐ様にマフラーに顔を埋めた。

周囲は張詰めた静寂に包まれ、時折通る車の音や自分か彼女の鼻を啜る音が響く。
畑が一面に広がる田舎はなかなか人にも出くわさない。学校からバス停までの道程ももちろん、人っ子一人見当たらない。
けれどそんな田舎臭さも、俺は心が穏やかになる様で好きだったりするんだ。



「…進路、決まったよ」


小さな声で喋り出した彼女は真っ直ぐ前を見たまま、更に鼻までマフラーに埋める。
俺もまた、彼女のその様子を見ると前を向き直して繋いだ手に自然と力を込めた。


「…お前なんかが都会でやってけるのかよ」

「一番心配なところをつつかないでよね」


皮肉を言ってニヤリと笑っても、彼女が想像通りに顔を歪ませても。
何時もならもっと上手く笑って皮肉って笑って、彼女だって笑ってるのに。


「精々田舎臭さ消して頑張れよ」


どうして繋いだ手が更に強張って、汗ばんで滑るのだろうか。


「ホームシックで直ぐに帰ってくるなよ」

「‥‥‥うん」

「みっともないから家で泣けよ」

「うん…ごめんね」



俯いた彼女の頭が滲む視界の端で見えて、俺は大きく息を吸って前を見据えた。



赤くなった掌、強く強く繋いだ証。切り裂く様に風が二人の間をそっと吹き付ける。
バス停が見えたら、そろそろこの手を離そうか。












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