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狙い撃ち





最近授業でよく当てられる。普通なら出席番号順とか、席順が妥当だと思うのに。
先生はさり気なく意図的にあたしばかりを当てる。しかも解らない問題だけ。
“解らない”と答えれば微かに鼻で笑う。ニタリと、まるで馬鹿だなと言う様に。

友達にその事を酷いよねと言っても誰もそんな事はない、あたしの考え過ぎだって言うんだ。(本当に馬鹿みたいで結構傷付いているんだけれど)
ついでに言えば先生は25、6歳ぐらい(以前友達が言っていた)で、格好いい(以前友達が言っていた)らしい。


「いい加減にしてよ」


一人暮らしをするあたしの部屋のソファに我物顔で座るそいつにあたしは溜息混じりに話掛けた。
テレビから目線を移し、彼は何時もの作笑いを浮かべ「何を」と、問うように首を傾げる。


「止めて、その気持ち悪い顔。此所は学校じゃないんだから」

「酷いな、そこまで言わなくてもいいじゃないか」


見ていられなくなったあたしは彼から顔をそらし、テーブルの上に散らかる空の缶ビールを手に取った。
拗ねた様な言葉遣いなのに顔は何がおかしいのか相変わらず笑みを浮かべ、今日5本目になろうとする缶ビールを手にしようとしたのをあたしは遮った。


「酒臭い、明日も学校だよ」

「…明日も授業あったよな」


何が言いたいのかなんてすぐ分かる。どうせまた難しい問題ばかりあたしを当てるんでしょ。
大体おかしいと思う、こんなのが教師だなんて。狡いにも程がある。

ニタリと笑ってあたしの手から新しい缶ビールを取り上げた彼をあたしは黙って見ているしかなかった。(以前本当に授業で当てられた過去があるからだ)
彼が特別お酒に弱いわけじゃないし、飲んだ次の日の仕事だってしっかりこなす事は分かっている。
だからいつもは完全に止めたりはしないのだけれども、なんだか今日は焦躁感に駆られた。


「ねぇ」

「え、」


不意に声を掛けられふと我に返れば、伸ばされた腕にあたしは成すがままソファへと導かれる。
いつの間にかテレビは消え、部屋は静寂に包まれていた。


「なんで、なんでそんな無防備なんだよ」

「…あたしが、無防備?」

「現に組敷かれてる」


何とも言い難い沈黙が始まる。突然の彼の言動に戸惑いつつ、頭の中で色々な事がひしめく。
無防備と言うより、常日頃から防備が必要である方が大変だと思うのだが。


「‥‥‥」

「疲れてる?」

「疲れてない、酔ってもいないけど理性はない」


思わぬ返答に真っ直ぐ見つめられて更にあたしの頭は混雑し始めた。
彼は正気なのに、理性はないと言って。それをどう受け止めればいいのか非常に困る。


「‥‥‥俺の前で他の男と喋るな、特に隣の席の奴」

「隣の席…?」

「それともあれか、分かっててやってる?」


眉間に皺を寄せて迫る彼から狭いソファの上で出来る限り後退する。それを遮る様に彼の大きくて温かい手が頭に触れた。
あたしの好きな彼の手が髪の毛の流れに合わせて頬まで伝う。添えられた手の温もりに少しの安堵を覚えてふと眼を瞑った。


「ほら、無防備」


苛ついた彼の声が暗闇の向こうから聞こえたと同時に手とは違う柔らかい温もりが唇に触れた。
慌てて瞼を開ければ視界は彼の大きな手に遮られ、右手首は強い力で彼に握られている。ソファから落ちない様に左手は彼の肩を無意識に掴んでいた。

最初は啄む様に触れるだけのそれは、回数を重ねる事に長く深くなっていく。
酸素を補給する僅かな時間すら焦る様に彼は一向にやめない。それどころか更に求める様に彼の手は身体を伝う。
何回も何回も繰り返される情事、どのくらい時間が経ったのか分からない程に頭が目眩を起こす。


「俺だけのでいて」


甘い、低くて甘いその声があたしの耳元で寂しそうに囁いた。


「俺だけのもので、いて」


意識が遠のく中、出来る限り頷いたのに彼は抱き締めて答える。
大きな手に、広い胸に抱き締められて小さくなるあたしの身体。それなのに何故かあたしが彼を抱き締めている感覚で。


彼は今にも消えてしまいそうだったから。彼の中からあたしも消えてしまいそうだったから?












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