[携帯モード] [URL送信]
一口チョコ





一口の幸せを頬張る。
溢れる甘さ、彼女の小さな舌の上で熱に溶かされて誘う様に滴る。

宝石を見る様な煌めく瞳。指先に残る甘さも舐めとりながら口へと運ばれる。
先程からずっとこれ。その行為の繰り返し。


隣に居る俺なんてお構いなしに、きっと彼女は右手に抱えた箱が空になるまで夢中なのだろう。
じっと彼女の口へと運ばれる一口サイズのチョコを見ながら、何故だか艶めかしいと感じたのはただの錯覚か。将又これこそ惚れた弱みなのか。



「頂戴」

「い、や」



漸く掛けた言葉すら二文字で返された。俺に見向きもせずに。



「そんなに好き?」

「好き、大好き」



本当に幸せそうな彼女の笑顔、少しだけ食べ物に焼餅を妬く俺。
俺にだってそんな事なかなか言ってくれやしないのに。

これこそ惚れた弱みなのか。ただ本物の馬鹿なのか。
思わず彼女の右手からチョコの入った箱を取り上げた俺は後者だ。



「やっ、ちょっと何するの?!まだ残ってるのに!」

「‥‥‥」

「きゃ、あっ‥‥」



一口の幸せを頬張る。

俺じゃない何かを求める彼女の口を塞ぐ俺は、彼女に依存されたいのだろうか。
諄いまでの甘さが充満する彼女の口内を堪能して、それでもまだ味わおうとする俺は完全に依存してしまっている。

息をするのも惜しいとは正にこの事なのだろう。
けれど俺の肩を弱々しく叩く合図に俺は名残惜しいのを我慢しながら彼女から離れた。



「‥‥‥殺す気?」

「まさか、ごめんごめん」



頬を赤らめて睨む彼女に自然に口角が緩む。
何時しかチョコの入った箱が部屋の片隅に追いやられたのは言うまでもない。













あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!