虹を探そう
夢見がちな少女が笑う。
純粋無垢?
心の中で葛藤する、
愛しい、憎い、愛しい
数十分前、ほんの数十分前までの事だった。
少女が頬を膨らませて、何を話し掛けても応じず、部屋の中で地団駄を踏んでいたのは。
「早く、外行こう!」
尻尾があればもぎ取れるぐらいの勢いで左右に振って居るんだろうなと思う。
ソファに座る俺の右腕を引っ張りながら彼女は淡い陽が漏れる窓を指差した。
「雨止んだよ、ホラ!」
「ホラって…」
雨が降り続いて家から身動きが取れず、ご立腹だった彼女は何処へやら。
先程まで口すら聞いてくれなかったのはどうやらスッカリ忘れてしまったらしい。
「はーやーくー」
「分かったから、洋服を引っ張るな!」
どうせ外に出るったって目的なんて彼女の事だから考えて無いのだろう。
だからと言ってここでまた機嫌を損なわれても後々大変なのだ。
ソファから重たい腰を泣く泣く上げて、彼女に腕を引っ張られながら外へと足を進めた。
洋服が伸びると何度注意しようが、彼女はお構いなしに腕を引っ張り続ける。何時しか注意するのも諦めてしまうから、結局は彼女のなすがまま。
「先迄の雨が嘘みたいだよ」
外に出れば彼女は俺の腕を離し、アスファルトに堪る水も構わず小走りで進む。
急に立ち止まって振り返れば、空を指差して嬉しそうに笑った。
確かに、彼女の言うように先程迄の激しい雨が嘘のようにからっと晴れている。
彼女に促されて空を見上げれば、痛いぐらいの陽が眼に映る。
「虹、あるかもな」
「え!?」
なんとなく、なんとなく零れた言葉は彼女に新たな冒険心を生ませてしまったらしい。
虹という言葉に敏感に反応した彼女は、一層眼を輝かせて再度俺の腕を掴んだ。
「見たいな」
「‥‥‥」
こうなったら彼女は引かない。上目遣いでお願いして、了承するまでけして目を逸らさせてはくれない。
心の中で溜息をついて、俺は自分の不用意な言葉に後悔する。
「‥‥‥探すか」
「そうこなくっちゃ」
満面の笑みを浮かべて彼女は煌めく髪を翻し軽快に歩き始めた。
こういう日もありなのかな。
彼女の無邪気さに振り回されて、きっとクタクタになって家に帰る事になるんだろう。
それでも何故か、自然に口角が緩むのが分かった。
雨上りの昼下り、
虹を探そう
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