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探しモノ





机の中
ロッカーの中
教室の隅々
廊下の端から端
下駄箱の周り
移動教室まで


遂にはゴミ箱の中

両膝は赤く跡が残り、少し擦りむいて血が滲んでいる。
休む事の無い指先は爪が折れて、埃を浴びて黒ずんで。



「何やってんの」

「うわっ」



部活の帰りに教室に寄って見れば、教室の隅のゴミ箱の前に彼女は居た。
何やら一生懸命にゴミ箱の中を探して居る様で、全く俺の存在に気付かない。

恐る恐る近寄って声を掛ければ、彼女は肩を揺らして驚いた。



「えっ、あ、探しモノ」



手に持ったゴミを恥ずかしそうに後に隠して、彼女は微笑んだ。



「そんなになるまで大事なモノなのかよ?」

「うん、とても」



嬉しそうに答えた彼女の前髪、スカートには埃が付いていて。
腕捲りをした華奢な白い腕には擦傷が生々しく映えていた。



「‥‥‥手伝おっか?」



自然に言葉が零れた。
ハードな部活の練習の後でつい先程まで早く家に帰りたいと思っていたのに。

自分自身も驚いたが、彼女も吃驚したようで少しの間眼を見開いて俺を見た。



「え!?だ…大丈夫だよ」

「でも、もう8時半だし」



慌てた様子で頭を一生懸命左右に振る彼女は少し不審だ。
俺は時刻を告げながら窓を指差し、外が既に真っ暗である事を彼女に知らせる。



「何探してんだよ」

「‥‥‥」



彼女は俯いて一向に探しモノを述べてくれない。
なかなか顔を上げない彼女に痺れを切らし、俺は俯いた彼女を覗き込む。



「なぁ?」

「‥‥‥シャーペン」

「シャーペン?」



漸く口を開いた彼女は後退しながら頬を真っ赤に染めていた。
俺は何故シャーペンが大切なのか、何故彼女がそこまで赤く染まるのか疑問に思い眉を顰める。

しかし、彼女の言葉に今度は俺が顔を染めた。



「青い…青いシャーペン」

「青いって‥‥‥」

「交換した青いシャーペンだよ!」

「っ‥‥!」



彼女の言う青いシャーペンとは、以前彼女の黄色いシャーペンと俺の青いシャーペンをひょんな事から交換したモノで。
まさか彼女が、彼女もあのシャーペンをここまで大事にしてるとは。

はち切れそうな思いに口を右手で塞ぎつつ、俺は再び俯いてしまった彼女から目を逸らした。



「けどさ、流石に遅いから明日の朝‥」

「駄目だよ!」



俺の言葉を遮った彼女の言葉が張り詰めたあまりにか細い声で。



「駄目だよ…」



首が取れそうなぐらい俯いてしまった彼女に、どうしてか罪悪感が身体を走る。
俺が傷付けてしまった様な、完全否定されてしまった様な。



「迷惑かけてごめんね」



独りで探すからと俺に背を向けてしまった彼女の後姿を見ながら。
俺は持っていた鞄を床に放り投げた。



「‥‥…無理」

「あ、ちょっ!汚いよ!?」



彼女からゴミ箱を取り上げて俺は勢い良く腕を突っ込んだ。
驚いた彼女は俺の肩を掴んで返せと促す。



「二人で探せば早いだろ」



俺の言葉に彼女は俺の肩から手を放す。
ゴミ箱から彼女に視線を移せば、彼女は優しく、満面の笑みを浮かべていた。

耳から全ての音が無くなり、時が止まったかの様に彼女から視線が外れない。
腕は相変わらずゴミ箱に突っ込んだままなのに、掌に汗が滲むのが分かった。



「ありがとう」

「‥‥‥おう」



身体中が火照って、なんだかこっちが恥ずかしくなってくる。



「どこ探してないんだよ」

「えーとね…」



見つかるかなんて保証はないし、もしかしたらもう見つからないかもしれない。
それでもどうしてもここにいて彼女と探したいと思った。



一度探した場所をもう一度探して、何度も何度も繰り返す。
明日になっても明後日になっても見つからなくても、彼女が望むまで。

探しモノ。












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