左耳のピアス
ひとつしかないピアスの穴にあたしは問う。どうしてふたつ目は開けなかったのかと。
あたしの知らないピアスにあたしは問う。どうしてお前はそこにいるのかと。
「痛かったし」
前者はこう返す。ひとつ目の痛さで断念したのだと。
後者は返されない。あたしが問う事を止めたから。
あたしの知らないあなたを、随分前から知っているのだろうお前は。
然も当然のようにあなたの一部に化すお前をあたしは憎らしく、酷く綺麗だと思う。(あなたの一部だからこそ余計に)
「良く、似合ってるね」
ああまた、矛盾が広がる。お前を褒めた訳じゃない、あなたを褒めたんだ。
お前が光を反射して煌めくのはあなたが光を吸収してくれるお陰なんだ。
「…いや、お前の方が似合うかも」
あたしを見て微笑んだあなたに心臓を弾ませて、あなたの左耳から綺麗な指で外されたお前を見詰める。
お前がいなくなったあなたは何だかあなたじゃないように見えたけれど、今はそれどころじゃない。
その綺麗な指はあたしの左耳にお前を埋め込もうとしているのだ。
あなたと同じ場所に開けられた穴に、あなたの一部だったお前があたしの一部となる。
「ホラ、似合う」
笑うあなたにむず痒い思いが胸を這う。
似合ってる?あんなに恨んだお前が、あたしの左耳で褒められている。
「あげるよ、それ」
「いいの?」
「そのかわり外さないでね」
俺のものだからと、お前もあたしも抱き締めるあなたが心底好きだ。
(お前がいなくなってもやっぱりあなたはあなただ)
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