銃口と切先
あなたの想いで突き抜かれた。あなたの想いで切り裂かれた。
心地よい痛みを伴いあたしをまどろみへと誘い込む。あなたを想うだけの果ての無いまどろみへと陥れる。
それは突然、窮地に立たされた。3分後の未来にあたしが生きているのかも分からない。
「物騒な世の中だ…」
そう呟いた貴方の手にある凶器があたしの額に当てられる。
物騒なのは貴方の方だ。そんな事は言える筈も無い。引金に掛かる貴方のたった一本の指に、あたしのたったひとつの命が掛かっているのだ。
「君はそれで…俺を殺すつもりなのかい?」
そう問い掛けた貴方の首に突き付けた短刀の柄をあたしは血が滲むほど握り締めた。
殺すつもりなんか微塵も無いけれど、条件反射に正当防衛で貴方に向けたそれは引くにも引けない。
「早くやらないと…君が死んじゃうよ」
引いてしまったらあたしはやられる。これ以上柄を握り締める力を込めたら、貴方があたしにやられる。
それでも、こんな細い刃先で貴方の命は瞬時には奪えない。共に訪れるであろう痛覚は人事に思えず、唇を噛み締めた。
あたしがやらなければ。あたしの意識が明確なうちに、少しでも隔たり無く逝かせなければ。
「ホントに…物騒な世の中」
あたしはその術を知っている。何処にどう刃先を向ければ簡単に死ねるのか、知っている。
「ごめんね、最期にまた君の手を汚してしまう」
「…今更、よ」
むしろ、最期にこの汚れた手が貴方の色で染まるなら本望。
短刀を握り締めた、度重なる染色と異臭が纏わりつくあたしの手を、貴方はとても大切そうに手を添えた。
「少しでも長く、君が与えてくれる痛みに浸っていくことにしよう」
そして、最期の最期まで自分に染まっていくあたしを見届けるのだそうだ。
あたしはそれを聞いて迷い無く短刀を持つ手を振り翳した。
貴方が優しく微笑んだのを眼に焼き付けて、あたしは瞼を閉じる。
3秒後の未来にあたしはきっと何も出来ないのだろうから。
無機質な小さな音と共に熱いモノがあたしを貫く。
貴方の眼に映るあたしは、うまく、笑えてるだろうか。
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