一人残してどこへ行く? 重たい扉の閉まる音が無情にも部屋に響き渡る。それは何秒も、何時間も頭の中で響き続ける。 『行って来ます』から一生返ってはこない『ただいま』を、一生待ち続ける意も無い。受け止める力も無い。 君の残香が薄れゆく荒れ果てた部屋で、このまま独り寂しく事切れるのを想像する。それは俺の弱さから生まれた諦め。それは俺が強く想う君への執着心。 未練がましく女々しい俺を置き去りにした君の気持ちが、今なら何となく分かるよ。 『あたしは貴方の隣に居たいのに、貴方はあたしに依存し過ぎてしまっているの』 それの何処が悪いのかと、苛立ちさえ覚えた。君が余りにも自然な口調で言うものだから、呆気にとられて何も言い返す事は出来なかったけれど。 『気付かないの』そう問い掛けられて首を横に振れば、彼女は苦笑した。 『少し、近過ぎなのね』 そう溢して眼を瞑った君がつい先程の事のように思い出される。 俺を一人残して何処かへ行ってしまった君は、随分前に俺の心臓から消えてしまったというのに。 |