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左利きのあいつ





右頬が痛い。右頬から心臓にかけて痛さが走り、右頬から脳にかけて思考回路を停止する。
右頬が痛い。鋭い切先のような視線に瞳孔から後頭部にかけても痛い。

痛い。けど、きっとあたしの右頬を叩いたあなたの左手の方が痛い。あなたの心臓の方が痛い。



唇を噛み締めて瞬きをせずに見詰めていたあなたの確かな呼吸を感じて、漸くあたしの思考力は回復する。
相変わらず痛さを帯びる右頬ばかりに気を取られ、口の中に鉄の香りが充満している事に今し方気付く。


「ごめん…」


慣れない味に顔を顰めたあたしを見るなり、眼を見開いたあなたは自分の無防備にぶら下がる左手を見ながらそう小さく呟いた。
あたしは首を傾げる。項垂れたあなたには見えていないだろうけれど。


「痛い、よな」


肉体的に痛いと聞くなら直ぐに頷けるけど、そうじゃないなら頷けない。先程まで怒っていたはずのあなたの眼が今にも溢れそうな程濡れている。
そんなあなたを見て、あたしは不謹慎ながら思うのだ。怒ってくれたことも、悲しんでくれたことも。嬉しいと思うのだ。


「ごめんね、ありがとう」


あたし、まだ死ねないね。あなたの隣でまだ生きていたいよ。


「…もう二度と言うなよ」

「うん」


あたしの右頬を叩いたあなたの左手が、今度は優しく右頬を撫でる。痛さがなくなるわけじゃないけど、それでも充分。
あたしには充分過ぎるあなたの左手の愛情。













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