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アカイモノ





蒼白い掌、指先に絡まる赤くて温かいモノ。渦巻く異臭が思考回路を曇らせる。
これは、愛しい愛しい人間の命なのだ。憎い憎い人間の命だったのだ。

茫然と立ち尽くす俺の前で彼女は下唇を噛み締めて肩を震わせた。振り上げた右手が俺の頬を射止め、空中で止まった右手が今度は俺の汚れた左手を握る。
口の中に充満してくる鉄の味に俺は眼を閉じた。


「馬鹿…」


小さく吐き捨てた彼女の声が脳を掻き乱す。
自分は本当に、本当に馬鹿な事をしてしまったのだ。この時漸く自分の置かれた状況に気付く。


「人、殺し…か」


途切れ途切れ呟いて目を開けば、彼女は瞳を濡らして俺を睨んだ。
そうか、やはりそうなのか。


「ごめん…」


何に謝ったのだろう。奪った命に謝ったのだろうか。悲しむ彼女に謝ったのだろうか。
おかしくなった自分に、謝ったのだろうか。


「あたしだけで…あたしだけでよかったのに」


そう言って握り締めた彼女の右手を見れば、俺の左手よりも染まっていた。
赤く赤く染まっていた。












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