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ブラックコーヒー




「苦っー…」



目の前のデスクに、少し高そうなマグカップに入った
湯気を立てたその黒茶の液体に。

興味本位に手を伸ばし、恐る恐る口にして。
思わず出た第一声。



「ガキ」

「う…うるひゃい‥‥」



横目で冷やかすように声を掛けて来るのに対し、

あたしは口に残った苦さを出来る限り味合わない様。
口ごもるばかり。



言返すにも口に再び苦みが広がるから、
うまく呂律が回らなく言返せなくなる。



「‥‥大体、お前は苦いのが苦手だろう」



呆れたように言葉をはき、
あたしの手からマグカップを取り上げる。


その行為を茫然と見て。
手から伝わっていた温かさが無くなり、物寂しさを覚える。



「苦い…」



聞こえるか聞こえないか。
小さな声でもう一度囁いて。


やっぱり。
苦い。





「どうした?」



何かを覚ったのか。
あたしの頭を軽く叩いて。

問う声はとても優しいモノ。



「何でもないよ…」

「嘘吐け」



否定したあたしの言葉を遮る様に
否定された言葉が更に響く。



するとほら。
もうこじ開けられてしまう。

固く閉じた筈の我儘とか。
弱音とか。





「大人になったら…ブラック珈琲飲めるかな」



せめて我儘にならないよう。
喫んでは消して。

紡いだ言葉が貴方に伝われば。



「大人になったって…飲めない物も有る」



少し苦しそうなその声と、
意味を込めたその言葉。

苦い想いと甘い気持ち。
入乱れては複雑な味を醸し出す。



「甘いの苦手だもんね」

「お前の大好きな苺牛乳は頭が痛くなりそうだ」



顰め面で思い出したように頭を押さえる姿に
どことなく可愛さを覚えて笑いが込み上げる。



横で小さく笑うあたしの姿を優しく見つめる視線。
ふと、顔を上げると視線がぶつかる。



「無理して呑む事はない」

「うん…」

「いつか呑める日がくる」



貴方の不確かな言葉は。
とても珍しく。

不安定な気持ちを表して。
不器用ながら伝えている。



あたしはこくりと一頷きして、
出来る限り微笑んで。

貴方の手にあるマグカップを
もう一度手に取る。





もしかしたら。
いつか、なんて

いっしょう、ないのかもしれないけど。





あたしは。
知りたいのだ。


苦くても、甘くても。
ひとつひとつを。

知ってゆきたい。





「苦くても、温かいもん」





『苦い』から、
けして嫌いではない。



貴方が時折、
あたしだけに見せる笑みだとか

頭を撫でる大きな掌だとか。



悩みを吹き飛ばす様に
温かくて。

苦くて苦しかった
不安を取り除く。





マグカップから湯気を立てる、
温かさを絶え間なく。



貴方を。
知りたい。












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