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音ヲ塞ギ。



何にも聞きたくなくて、聴きたくも無い音楽を聴いていた。
耳が壊れるくらい大音量のイヤホンからは、きっと音漏れしてると思う。

誰も居ない放課後の図書室。あまり使って無い割には汚らしい本ばかり。
やたらと綺麗な木の机は心地良い程冷たて、あたしの右頬はくっついたまま。



伏せた瞼を少し開き、窓から見える空は朱と蒼のグラデーションに染まっていた。
蒼の空には白い月がぽつんと淡く浮いている。

まるで、居場所とタイミングを間違えたみたいだ。



もう一度瞼を閉じて、通り過ぎる笑い声を待つ。
大音量で耳元に囁く音すら構わず、廊下を過ぎる笑い声と足音は聢り聞こえてくる。


どうして聞きたくないモノばかり聞こえてきて、肝心の見たいモノは見れないのだろうか。

今ではその肝心の見たいモノすら霞んでしまったけど。





漸く通り過ぎた笑い声に安心すれば、直ぐさま緊張が身体中を駆け巡る。
心臓を太い針で突き抜かれた様な感覚で、何時になっても慣れやしない。


図書室の重い扉を開ける音に、閉める音。
聞こえそうなのに所々イヤホンに掻き消される小さな足音。

今すぐイヤホンを取り去ってしまいたい衝動に駆られれば、それは自分の意思とは関係無く叶う。



「あぁ‥また、こんな大音量で聴いてるし」



机の向かい側に座り、あたしの耳から取り上げたイヤホンをぶら下げながら貴方は言った。
眉間に皺を寄せて、窓から漏れる夕陽を手で遮る。



「耳悪くなるし‥‥‥ちゃんと聞こえてる?俺の声」



そう問い掛ける貴方を、机から右頬を離して見上げる。
調子のいい口調とは180度違った表情を浮かべているように見えたのは、あたしだけだろうか。



「‥‥‥聞こえてるよ、嫌でも聞こえてるから」



ただ素直に、答えた。
そしたらなんだか貴方が、もっと悲しそうに笑った。



「そっか、だから遮るんだ?」



聞こえているから、あたしは遮るのだろうか?
聞きたいから、あたしは遮っていたのではないだろうか?

あたしはただひとつの音を、ずっと望んでいた筈だったのに。
何時から全てを遮った?



「それでも、遮れきれなかった」



そうだ、



「どんなに大音量にして遮っても、分かったよ」



貴方だって、



「分かったよ」



貴方の手のイヤホンから漏れる音が、静かにふたりの間を流れる。
全身を染めていた夕陽が段々に黒く染まるけれど、貴方の顔は聢りと窺えた。


あたしの言葉の余韻が図書室中に響く。
遮るモノが、もっともっと小さく感じた。



「‥‥‥よかった、」



強張る肩から力が抜けて、貴方の口角が弛んでいくのが分かる。
そっと零れた貴方の笑顔に先の様な悲しさは微塵も無かった。



よかったって、それはあたしが言いたかった言葉だよ。
貴方が無理矢理イヤホンを取り上げなかったら、無利益を続けてた。


見たいモノすら霞んでゆくそんな日々に、終止符を打つ。

こんなにも呆気なく。
一生懸命に。









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