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桜色鉛筆の青





貴方の苦しみとか、
別けてもらえないでしょうか。

色鉛筆が入った筒を弄り、桜色を見けられない。
貴方の気持ちを、本の少しだけ教えてくれないでしょうか。





この桜並木道も、
今年で最後になるのです。



歩く事もなければ、
咲く事も出来ない。



貴方がスケッチの為によく座っていたこのベンチも。
貴方を探した桜並木のあるこの公園も。ブランコも。



桜が散ると共に、
去ってゆくのです。





「おはよう」



何気無く、笑い掛けて。
何気無く、隣りに座る。



「おはよう」



何気無く、此方を見て。
何気無く、返事をする。

何気無く、
何気無く、出来てる?



貴方の描くキャンパスは、あの日から空がない。
色鉛筆の入った筒には青色が見つからなかった。

次第に筒は、小さくなった桜色で染められる。



けれども今日、
貴方が手にしていたのは新品の青色だったんだ。



「青‥‥‥」



思わず呟いて、
貴方は悲しそうに振返る。



「‥‥最初で最後だよ」



最初で最後。
そのことばがおもくって



泣いてるのかと思ったよ。
笑った貴方が青に染まるから。



ねぇ、それはもしかして
桜色に咲く雫?





「泣かないの?」

「泣いてるよ、一杯泣いてるよ」



ただそれが、
声にならないんだって。

目に見る事が出来なくて、
確かめられないんだって。



「伝える術がないの、だからせめて青色を」



青色を、描く
貴方の頬が濡れました。

それは貴方のキャンパスにまで零れ落ち、青色を滲ませた。



空が見えない程桜色したキャンパスが、涙を流した様だった。





「っどうして‥‥」



悲しさに喘ぐ貴方は苦しそうに心臓を握る。

あまりにも強く爪を立て、抉るんじゃないかって程。
だから貴方の心臓の変わりに僕の手を握り締めて?



「こんなに綺麗でも‥‥無くなっちゃうの‥‥‥」



僕の手を握り締めた貴方の手から色鉛筆が落ちる。
まるで、突き付けられた現実から桜が逃げていた。



「綺麗だって気付かない人間だっているんだ」

「どうして今更っ‥‥!」



泣き崩れてゆく貴方の肩を抱き留めた僕の手は、震えていた。





貴方と初めて出会ったのもこの桜並木のベンチ。

物心付いた頃から、
ずっと桜並木が僕の心に居た。



それは貴方にも、
かわりはなく。

僕にもかわりはなく。





けれど、
今年で最後なんだ。

どんなに満開に、
綺麗に咲き誇ったって。

今年で最後なんだ。





「寂しい‥‥苦しいよ」



僕の胸を掴んで、
ベンチから滑り落ちる貴方を見ていられなかった。



何時も貴方の気持ちが知りたいと冀ったけど。
今は痛い程伝わってくる。

咽喉にツマって酸素が身体に回らない程。
苦しいぐらいに、





悲しいよ





「君のキャンパスに…桜は生きてるよ」





愛しいよ










貴方をベンチに座り直し、
落ちた青の色鉛筆を拾う。

震えた貴方の手に、
優しく色鉛筆を握り締めさせた。



「描いてあげて、此所にいた証…残したいんだ」



僕の言葉に、貴方は何度も頷いてくれた。



これは、
エゴなのかもしれない。

桜並木が消えた後、
僕と貴方を繋ぐ為の物にすぎないのかもしれない。



それでも、
それでも欲しかったんだ。

現実から消えていく桜の形、
僕の心の穴が残り。



桜と共に貴方も、
消えてしまいそうで

怖かったから。



『生きてる、隣にいる』



って‥‥‥

確証なんかじゃなくて、
貴方の声で聞きたかった。





「泣いてるの‥‥?」



泣いてるよ。
止処無く、泣いてるよ。

声にならない程
苦しい想い、泣いてるよ。



ぎゅっと、
抱き締められた温もりは

貴方のもので。



変わらず震えた手、
力強くて、切ない。



「隣にいてもいい‥‥?桜が無くなっても、隣にいていい?」



そんな事言わないで。
隣に、居て下さい。



僕の隣に、
居て下さい。










僕等の桜が消えた。

それでも、
僕等から桜が消えることはなかったから。



貴方が描き続ける桜に、
僕等は寄り添った。





桜吹雪のトンネル
何処まで続く桜並木

ベンチの片隅で、桜色鉛筆を手にして居た貴方。



僕に気付いて振り返り、そっと微笑んだ貴方。



忘れない、
忘れない。










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あきゅろす。
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