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零れた炭酸飲料











『五月蠅い』



そう呟いた
君の声が

今にも暑さに
溶けてしまいそうで。



俺は
寂しさを覚えた。















グラスに注いだ炭酸飲料が、小さな音を響かせて

カラン と氷が揺れた。



「あたしも…蝉みたいになりたかった」



瞼を伏せて、力が抜けた様に寝っ転がる

彼女はぽつりと零した。



「蝉?」

「しつこくて、耳障りで…五月蠅くて…あたしも蝉みたいになればよかった…」



いつも彼女は『五月蠅い』と、蝉を毛嫌いしていたのに。


ごろん と仰向けになった彼女は、俺を見て微笑む



「どうせ短い命なら、蝉の様に叫べばよかった…」

「…俺が、ちゃんと聞いてるよ」

「‥‥そうだね」



彼女はまた、寂しそうに目を細めて微笑んだ。





一瞬、言葉に詰まってしまった俺は…

まだ受け入れて無いのだろう、



彼女の未来を。





「夏には嫌われちゃうけど…冬になると恋しくなるでしょ?」

「居なくなると、やっぱ寂しいよな」

「あたしも…そうなりたい‥から‥‥」



微笑む彼女の頬には
涙が伝う





横に置いてあったグラスが、残り少なかった炭酸飲料と共に

ガラン と倒れた。





寝ていた彼女を抱き起こして
優しく、力強く抱き締める。



「俺は…ずっと忘れない」















零れた炭酸飲料が、

シュワシュワと
気の抜ける音を響かせながら



夏の暑さに
溶けてゆく様で










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