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牡丹雪



牡丹雪が黒いコートの袖に。
"ことり" と、落ちた。

袖の上で溶ける訳でも無く、僕の一部で生き続けている。



生き続ける為の"糧"。

身体を締付ける寒さでさえ、
"彼女"には"あたたかい"ものだろう。




白く染まる"つめたい"吐息を吹き掛けない様、
牡丹雪の乗っていない左手で口と鼻を押さえた。

自分の手の冷たさに吃驚して、慌てて鞄から手袋を取り出す。
下を向いて手袋をはめていると、地面に無数の牡丹が咲き始めていた。



「あっー…」

「ごめん、寒かったよね?」



抑、この寒さの中で立ち尽くし待ち侘びていた原因。
約束の時間は10分近く過ぎていて、苛立つ筈なのに。


息を切らして、僕の身体を心配する優しい声に。
心が。勝手に弛んでいってしまうんだ。



「大丈夫だよ」


彼女に笑い掛ける僕は、
なんて馬鹿。





「牡丹雪だね、凄く綺麗」


そうやって、僕の心を温かく染めてしまうんだ。

無意識?
笑いが零れちゃいそうだよ。




彼女の緑の黒髪に。
影を落とす長い睫に。

赤く染まる柔らかな頬に。
触れたくなる桜色の唇に。



牡丹雪は惜し気も無く、
咲かすのだ。

綺麗に
綺麗に





「鼻が赤くなってるよ」

「君も」


何気ない会話も全て、
咲くのだ。

絢爛に
絢爛に










寒い中、わざわざ立尽す。
その理由は。

牡丹雪が咲き終わる。
その刻を惜しむ為。






あきゅろす。
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