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黒猫舞踏会





ヒラヒラ
ヒラヒラ 舞う様に。

夜空の星の迫間に消えて。
月影に眩んでは陰翳を落す。



着地する時は
出来る限り音を立てぬ様。

微風に身を任せて、
膝を軟らかく曲げる。



『月は十六夜』


円ら瞳を真ん丸と。
金の髪が良く靡く。


『今宵限りの逢瀬に。』


胸を弾ませながら。
嗚呼、高鳴る気持ちを押さえ切れない。





全てが“アタリ”だったわけではないけれど。
幾つかの掛け替えの無い大切なモノも見つかった。


『“素敵”で、あれ』


そう思わず呟いた少年は。
笑いを止められない。





大通りの街灯の光を
避けながら。

忍び足の様な。
軽く舞う様な。
そんな足取りで。



ピチャン…

隣を通り過ぎた黒猫が、
まじまじ僕を見ながら片足を水溜まりに突っ込む。



何も音がないと。
言っていい程閑寂だった街に。

突如、
水の波紋の振動が響き渡る。



黒猫は金色の目をギョッとさせ。
肉球をペロリとひと舐め。

一見、冷静な形振。



微かに浮かぶ夜空の白い雲。
どうやら白昼、
久々に雨が降ったらしいな。



マントを翻して月に背を。

黒猫と視線が交じれば。
さぁ宴の始まりだ。





『今日は何処の街へ』


ふと声が聞えれば。
先程の黒猫が首を傾げている。

“まだ”ちゃんと話した事はないけれど。
黒猫の声はやけに澄んでいた。


『殺せない子に出逢いたい』


そう言って、何故か猫に微笑みかける自分に。
結構な矛盾を感じるけれど。


まぁこの季節。
一肌が恋しくて。

不思議な事に出会いたい。
わくわく感が堪らない。

そんな気分だ。


『御一緒しても宜しいですか』


頭の中に直接響く様な
澄んだ声で。

黒猫は出来る限り首を伸して、
僕の眼を見つめた。


『君にとって、楽しい事とは限らないよ?』


そう告げた僕に。

黒猫はどこか、
優しく微笑んだ気がした。


『貴方様が居るのであれば』


“何処へ行こうと、退屈はしないのです”

黒猫の思わぬ言葉に。
自分の顔が弛んでいくのを止められない。


僕は黒猫の前に跪いて、
目線が合い易い様腰を更に前へ屈める。

右手なんて差し出して。


『僕なんかで良ければ。』


とエスコートしてみたり。


その時、
また黒猫が笑った気がして。

黒猫を両腕で抱き抱え。
マントを翻し、勢い良く夜空に消えた。





『お姫様、このまま攫っても構いませんか?』


腕の中でおとなしくくるまる黒猫は。
今度は声を上げて笑った。


『ふふ、構いません』


黒猫はその金色の瞳を。
優しそうに瞑るのだ。


『どうして私が女だと?』

『‥女の子の、匂だよ』


あぁ…と 納得したのか、
満足した様に黒猫はまた瞼を伏せる。



“彼女”のその大らかな振舞や
緑の黒毛が艶やかに美しく。

金色の瞳は
吸い込まれそうな程。


『今の侭でも綺麗だけど』


“もうひとつの姿も
     見てみたい”

衝動は止められなく。
駆け抜けては声にしていた様で。


『お気になりますか?』


黒猫は瞳を伏せた侭問う。

好奇心が止まないのは退屈しないが。
これ程までに欲が激しくなると話は別。


『夜が明ければ。嫌でも分かりますよ』

『それは…今直ぐにでも分かるという事?』


問い詰める様
言い返した筈なのに。

“彼女”は妖しく微笑むだけ。


『夜明けの楽しみ。という事にしとこうか』





夜が明けるのを待つ。
こんな宴は初めてだ。


相、変わらず。
月が沈むのは怖いけど。

今日という日は何という事。
こんなにも待遠しい。





ヒラヒラ
ヒラヒラ 舞う様に。

朝焼けの朱に覆われて。
眩い透きを暗幕代わり。


姿を眩ます時はなるべく素早く。
足跡を残さない様箒で消しながら



おいで おいで
黒猫や。

お家が無いなら
僕の舞踏会に招待しよう。









あきゅろす。
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